2022.03.28| オンラインジャーナル
デジタルアーカイブにおける『肖像権ガイドライン』の試み
5.活用可能性
本稿で紹介した肖像権ガイドラインは、あくまで非営利目的でアーカイブ機関が写真資料を公開する場面を念頭に策定されたものです。営利目的の利用や、公開目的と関連性の低い写真を公開する場面などは想定していませんし、点数計算に際しても、裁判例が示す考慮要素の一つである「目的」については独立の項目としていません。
しかしながら、ポイント計算というアプローチそのものや、裁判例等を踏まえた個々の項目の考え方自体は、写真や映像を商用・広告用に利用するような場面においても共通する部分が多く、肖像権ガイドラインに一定のアレンジを加えるなどすることで、十分に活用できるのではないかと思います。実際に、肖像権ガイドラインでは対象外とした映像に関して、朝日放送グループ「激震の記録1995 阪神淡路大震災取材映像アーカイブ」の開設や、神戸大学附属図書館「震災文庫」における映像公開などの場面で、肖像権ガイドラインを参照しながら公開可否の検討がなされるなどしました。
商用・広告用の利用場面では、例えば一律にマイナス30点などと点数処理をすればよい、といった単純な話ではもちろんなく、具体的な目的や態様ごとにある程度異なった判断が求められるだろうと思います。また、パブリシティ権やプライバシー権、個人情報保護等の問題にも目配せしながら検討する必要があろうかと思いますが、非営利のアーカイブ利用に限らず、社会の様々な場面における肖像の使用について、肖像権ガイドラインが提示した考え方が活用され、議論が深まっていくことを願っております。