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2022.03.28| オンラインジャーナル

デジタルアーカイブにおける『肖像権ガイドライン』の試み

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2. 立ちはだかる「権利の壁」としての肖像権

肖像権について、裁判例は、みだりに自分の肖像や全身の姿を撮影されたり、撮影された写真をみだりに公開されない人格的利益と解しています。そして、その侵害の有無については、複数の要素を総合考慮し、被写体の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるか否かを判断するとの手法が取られています。考慮要素としては、①被撮影者の社会的地位、②被撮影者の活動内容、③撮影の場所、④撮影の目的、⑤撮影の態様、⑥撮影の必要性の6つが挙げられ、これらを総合考慮して判断することになりますが、個々の写真や映像データを前にしたときに、それらの利用が肖像権侵害となるか否かを迅速に判断することは容易なことではありません。

 

そのため、原則として、被撮影者から撮影やその利用の許諾を得ることが推奨されることとなります。しかし、撮影時や入手時には許諾を得ておらず、後になってから当該写真等を利用しようと考えた場合には、当該写真等の作成者や提供者とは個別に連絡を取ることが可能であったとしても、被撮影者に関しては、そもそもどこの誰であるのかすら容易には特定できない、というケースが非常に多いのが現状です。

 

加えて、肖像権に関しては、著作権における裁定制度のような、権利者が不明な場合の処理制度も存在しません。そうすると、個別の許諾が得られず、侵害の可能性ありと判断された写真や映像については、公開を差し控えるか、マスキング処理を施す必要が出てくるわけですが、侵害非侵害の線引きが曖昧であるがゆえに、どうしても過度な公開萎縮や不必要なマスキング処理がなされることになってしまうのです。

 

3. 肖像権ガイドライン策定の経緯

DA学会では、上記のような肖像権処理の問題を、アーカイブの価値を毀損しうる大きな課題として認識し、ガイドライン策定に向けた議論を2018年3月頃からスタートさせました。

 

ポイント計算により判断基準を一定程度まで客観化することができないか、との発想を出発点に、肖像権に関する裁判例を端から分析し、どのような要素があれば侵害になりやすいのか、逆にどのような要素があれば侵害になりにくいのか、マイナスの要素、プラスの要素を整理し、かつ、個々の要素を何点分と考えるのか、検討していきました。

 

そして、内部にて議論のたたき台となる第1版のガイドライン案を策定した後には、法学者や様々な種類のデジタルアーカイブに関わる研究者、様々な規模・種類のデジタルアーカイブ機関の関係者などを登壇者として招き、「肖像権ガイドライン円卓会議」と称する公開イベントを3回にわたって開催(1回目は東京、2回目は京都で実施。3回目はコロナ禍の影響からオンラインにて実施。)しました。多くの関係者や一般市民の方の参加があり、様々な角度から多数の意見が寄せられ、それらを踏まえて、さらにガイドライン案の改訂が進められました。

 

そのほか、大学、博物館、図書館等における実証実験や、DA学会のホームページ上でのパブリックコメントの手続きなども実施され、より広範な意見聴取に留意した検討が続けられ、2021年4月に肖像権ガイドラインの正式公開に至りました。

 

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