LAWYER
製造業は高度経済成長を支えた日本の産業部門の柱である。自動車と電機・電子機器の分野に特徴的であるが、たくさんの従業員、固定資産、子会社・関連会社、系列企業を抱えた日本の代表的な大企業が名を連ねている。法務部門の組織も他の業種の日本企業と比較すると、歴史と相応の規模を有している場合が多い。
一方、例えば電機・電子機器分野の企業の利益率は、製品ライフサイクルの短期化や人件費の安い新興国との競争等の要因により近年長期的傾向的に低下してきている。そのため、ほとんどの企業で生き残りをかけた事業再編・グループ企業再編が多かれ少なかれ行われており、会社法を駆使した戦略策定や再編過程でのリスクマネジメントなど、法務部門に期待される役割が大きくなっている。
また、最近の大きな流れとして、資材調達・製造・販売の拠点を中心に海外進出が極めて進んでいることがあげられる。日系の製造業で働くことは、グローバル企業のヘッドオフィスで働くことを意味し、法務部門の従業員の語学力に対する要求も高まる一方である。
なお、日本の製造業は他国に比べ、また、国内の他の産業に比べて公的な規制が少ないという特色があり、国や官庁対応の仕事はそれほど多くはないが、各種業法や知財関連法の制改定についてなど、業界団体を通じたロビー活動は活発に行われている。
製造業では知的財産部門と法務部門が分かれていることが多く、特許法を中心として扱う知財部門では、製品・技術についての知識が必要なことは勿論、1つの製品に多数の特許が絡み、しかもそれが世界中で実施されるため、複雑な特許ライセンス契約の交渉・作成など高い専門性が必要とされる。
一方、法務部門で働く弁護士の特徴は、とにかく広い分野をカバーしなくてはならないことである。開発・製造・販売・サービスのあらゆる過程において法的問題が発生するため、独禁法、PL法、消安法、不競法、著作権法、関税法、外為法などの広範な分野の法律を縦横に駆使しなくてはならない。
また、既に述べたように企業活動がグローバルに展開するため、語学力に対するニーズが極めて高いことも大きな特徴である。
一般的には、成熟産業であり、高い成長性は期待できないが、長年にわたって世界でもトップレベルの技術力・生産力を維持する日本の代表的企業が名を連ねる業界であり、安心感はあるといえる。
但し、弁護士ではない法務社員により構成される比較的大規模な法務部門と、長年にわたってお付き合いのある顧問弁護士により、ある意味で完成された法務体制があり、社内弁護士・社外の弁護士とも、新規の参入は簡単ではない。
しかしながら、事業再編・グループ企業再編が継続的に行われている中、M&Amp;Aや労務の分野など、弁護士のニーズは高まっており、また、増加する一方のグローバル案件に対しリーズナブルにスピーディーに対応できる弁護士もまだまだ不足しているといえ、このあたりが突破口となりそうである。
化学業界各社は、原材料に化学変化を加えて製品を製造し、販売している。
化学製品それ自体は、一般消費者に直接購入されるものではないが、自動車、液晶テレビ、携帯電話機等の電化製品、その他の消費材に必要不可欠な部材として、消費財の品質向上、耐久性向上等を支えている。そして、そのための研究開発に、各社、多額の費用を投じている点が特徴的である。
一方で、原材料に関して言えば、原油を中心とした原材料を仕入れ、加工して販売し利益を得るというビジネス・モデルを取ることから、近年の原油価格の高騰、為替相場の変動といった不確定要素により、業績が左右されがちであるといった特徴がある。
また、環境保護のための規制の全世界的な強化傾向に連動し、各社は、製造過程における二酸化炭素の排出量削減や残存廃棄物減量化のための取組み及びそのための体制整備等、環境保護へのさらなる対策を求められているという特徴も有する。
現在、化学各社は、上記のような原材料高騰、環境対策、多額の研究開発費といった問題解決の手段を模索しており、その一手段として、世界レベルでの企業結合や合弁企業の設立など、業界再編の可能性が高まりつつある業界である。
業務の中心は、やはり契約ドラフトの作成、確認であるが、製品取引・原料取引が世界各国に及ぶため、日本のみならず、関係各国の取引法、競争法、政府対応等を理解していることが要求される。そのためには、基本的な英米法の知識や総合的な英語能力を駆使することが必要であり、更には、海外との取引に伴っての、輸出入規制や関税対応、移転価格税制に関しての相談を受けることもある。
また、同一業種又は業種を超えた共同研究開発に多額の費用を投じており、将来的なビジネス・モデルの構築を念頭に、自社に必要な権利を確保するために、知的財産権に関する知識を駆使して、権利の取得からライセンス契約、企業内での発明の取扱い規定の整備に関与することも多い(知的財産部がその一部を担っている企業もある)。
業界の今後の展望としては、製品品質をより向上させ需要を喚起すること、及び今まで軸を置いてきた石油化学製品から離れた新規の事業分野を如何に切り開いていくか、という点が重要であることから、各社、そのための研究開発に余念がないと思われる。そのように技術力を中心に発展を続ける業界の法務に求められるのは、基礎法の知識は当然として、知的財産部門との連携の下、知的財産を取得、活用するためのサポートであり、そのためのビジネス・スキームの構築である。
残念ながら、現時点で、化学業界に身を置く社内弁護士はまだまだ少数ではあるが、上記のような展望の中で、即戦力となる中堅弁護士の他、新司法試験で知的財産法を選択した新人弁護士や理系出身の新人弁護士への需要増が予想される。
病気の診断・治療・予防や健康増進のために必要不可欠な医薬品を扱う、古くから存在する伝統的な業界である。日系・外資系を問わず、長い歴史を有し、ロングセラー製品を有する優良企業が多数存在する。
日本の医薬品市場は米国に次ぐ世界第2位であり、国内の他業界と比してもその市場規模は巨大である。巨額の研究開発費やマーケティング費を拠出するも、優れた新薬開発や優良な医薬品の継続的な供給が高収益につながっている。
近年、日本では、高齢化に伴う医療費抑制のための薬価抑制政策、後発品普及促進政策などにより、競争が激化し、ビジネス環境が年々大きく変化しつつある。
そのためか、近年、M&Amp;Amp;Aや事業提携などの業界再編の動きの活発化、後発医療品の急増、再生医療など先端医療分野の発展、多数のバイオベンチャー企業の登場など、革新的な動きが見られる。
さらに、国民の生命・身体の安全に直結する医薬品を扱うゆえに、製品の安全性や高いモラルが要求され、大学等への寄附金の拠出、広告、宣伝(プロモーション活動)などの分野におけるコンプライアンスが重視されている。
以上のような傾向を踏まえ、法務の果たすべき役割も、伝統的な一般的企業法務から、戦略的ビジネス構想の法的サポートや、コンプライアンス関係業務に至るまで多様化している。
医薬品の製造販売に必要な特許等知的財産の獲得・維持は最重要課題であり、必然的にライセンス契約業務、知財紛争対応など、知財問題に接する機会は多い。
また、M&Amp;Amp;Aや業務提携等が活発な昨今、合併や会社分割、営業譲渡等などの計画と執行にあたり、会社法の基礎知識も求められる。
さらに、複雑な薬価制度に起因する流通関係の諸問題や企業結合の検討、知財ライセンス契約の締結などに関し、独禁法の知識も要求される。
加えて、製品リコールの判断や対応、薬害訴訟対応などの場面では、高い倫理観を持ち、医薬品の安全性と国民の信頼維持に十分に配慮した事務処理が求められる。
また、寄附金の支出、広告・販売活動等に関して公正取引規約や業界自主規制等、多様なルールが存在し、これらの策定・監督などの場面においても活躍できよう。
成熟した法務部を擁する企業も多く、同業他社法務部との共同研究や情報交換も盛んで、経験豊富で有能な法務部員は多く存在する。
しかし、複雑な薬事規制に由来する従来からの業務量の多さと近年の法務案件の多様化に鑑みると、多くの企業においては、法務人員の需要に比してその供給はいまだ不足しているものと思われる。
さらに、知的財産関連部署やコンプライアンス関連部署においても法的知見を必要とする場面は増加の一途を辿っている。
当業界における企業内弁護士の採用の歴史は浅いが、その人数は着実に増加している。
また、当初は実務経験のある弁護士の採用が殆どであったが、近年では、司法研修所新卒弁護士を採用する例も見られるようになった。今後も、当業界において企業内弁護士を採用する傾向は増加すると思われる。
銀行の主な業務としては、預金、貸付、為替取引・決済、信託等が挙げられ、かかる業務は現在においても中心的な業務である。銀行はお金の貸し借り等を通じて、経済主体を結びつける機能を有しているが、我々個人にとっても預金や住宅ローン等を通じて銀行と接することから、他の金融業よりもその業務内容を理解しやすいのではないだろうか。
銀行は、金融業界の中心として存在しているが、それだけでなくあらゆる経済活動のインフラとしても機能している。その中でも決済と信用創造は特に重要な機能であり、当該機能の破綻が経済活動を停滞させかねないことは、バブル崩壊後の失われた十年やアメリカのサブプライムローン問題からも明らかであろう。
従来、銀行業界は法律によって、都市銀行、長期信用銀行、信託銀行等に業務が細分化されていたが、日本版金融ビッグバン以降の規制緩和で、そのような業態の垣根は低くなってきている。その結果、銀行の証券業務やリテール分野への進出や、ネット銀行のように他業種から銀行業への参加が見られるようになった。
このように銀行業界は社会の公器として存在意義を持ちつつも、その取り巻く環境は大きく変化し、他業態との融合も進みつつあり、今後も合従連衡等による再編やビジネスモデルの変化等が続くものと予測される。
従来型の銀行業務である与信業務、受信業務、信託業務等については、既に多くの先例や慣行があり、まずはそれらを学ぶことが求められる。また、一般にスタッフの専門的能力が高いことから、組織内弁護士としてもそれに応えうるだけの専門性を要求される。
近年は制度改正やIT技術の進歩等により、リスク管理や新商品の開発がより容易になってきており、証券化や排出権取引等に見られるような新しい金融商品も生まれている。組織内弁護士としては、従来の実務を踏まえた上で、このような新たな問題にどのように対応するのかといったリーガルマインドが求められる。
また、銀行業務は、比較的チーム単位で仕事をすることが多いため、組織内弁護士にも専門知識だけでなく、スタッフや他部署との協調性が求められる。
バブル崩壊後、銀行業界は大いに苦しんだが、不良債権処理もほぼ終焉を迎え、ようやく平時へと回復しつつある。
しかし、業績が回復したとしても、もはや護送船団方式のビジネスモデルは通用せず、各社は合従連衡による再編や新たなビジネスモデルの構築に余念がない。
もっとも、わが国において飛びぬけた存在のメガバンクであっても、資産規模の面ではともかく、資産効率や時価総額等の面では欧米の有力銀行の後塵を拝している。
そのような現状の中、銀行業界としては、今後、コングロマリット化による総合金融サービスへの飛躍が課題であるといえよう。
近時は金融技術の発達とともにそれを支える法的インフラも整いつつあることから、組織内弁護士としては非常に働き甲斐のある分野であるといえる。
準備中
人の経済活動すべての危険を対象とし危険を分散する生活に密着した制度。抱える訴訟は多数
損害保険業は損害保険業免許に基づく免許事業であり、金融庁の指導や検査を受ける立場にある。保険業法等で認可事項や届出事項が細かく定められ、保険会社の業務は多岐にわたって規制を受けている。そのため、損害保険会社にとっては金融庁の監督指針や検査マニュアルが法令と同等の重要性を持っており、これらの解釈を含めた対応は重要な課題となっている。
保険制度は、保険は保険契約者から収受する保険料の総額が支払うべき保険金の総額と相等しくなるように運営されなければならないとの原則(収支相等の原則)、および個々の保険加入者には各人の危険に対応した保険料の支払を求めなければならないとの原則(給付反対給付均等の原則)のもとで運営されている。これらの保険経営上の原則から保険法における特有のルールが導かれ、その一つとして保険加入者間の公平が強く要求されることとなる。また、近年、保険商品の複雑化等に伴う保険金の支払漏れ問題等により、保険加入者の保護が強く要請されてきている。これらのことは、約款解釈にも大きな影響を与えているのであり、保険加入者間の公平と保険契約者の保護とを両立させる健全な保険制度の運営を実現するために、的確な法的判断が強く求められている。また、保険制度は、保険加入者が保険加入していることを利用して不正に利益を得ようとする危険(モラル・ハザード)を伴うのであり、保険金の不正請求を防止するための適切な対応が求められている。
保険会社の販売している商品は、保険事故に対して保険金を支払う保険契約そのものであり、契約内容は約款で示されることとなる。そのため、保険関係訴訟においては法令の解釈のみならず約款の解釈が重要となるのであり、約款の解釈を巡って、過去多くの訴訟が提起されてきた。保険会社は、健全な保険制度を実現すべく、合理的な主張を行っていかなければならない立場にある。
なお、損害保険において保険募集等の主要な役割を担っているのは損害保険代理店である。損害保険代理店は、特定の保険会社の商品を取り扱う専属代理店と複数の保険会社の商品を取り扱う乗合代理店に区分できる。また、保険募集のみを専門として行う専業代理店と他の業務と兼業しながら保険募集も行う兼業代理店にも区分できる。代理店は損害保険会社と損害保険代理店委託契約を締結し保険募集・契約保全を行うビジネスパートナーであるが、一方、損害保険会社の従業員ではないため適切な指導・監督が及びにくいという危険を伴っている。保険会社が適切な保険募集を実現するためには、これらの代理店をいかに指導・監督するかが大きな問題であり、ここにも保険募集に関するコンプライアンスや加入者情報の保護等に関して重要な法的問題が存在している。保険募集や情報管理等を適正に行う上で代理店との関係は重要であり、これは損害保険業界の重要な特徴の一つである。
損害保険業界で働く弁護士の特徴として、保険法・保険業法関連の法律相談、約款の作成・改定対応、金融庁対応、適法な募集スキームの構築、募集ツールの審査、訴訟等を通じた保険金支払請求への対応、悪質クレーマー・反社会的勢力対応支援などの業務を行うことが挙げられる(もちろん、他の業界の組織内弁護士と同様に、法律相談、会社関係訴訟への対応、一般的な契約書審査、株主総会対応、人事労務案件対応などの業務もある。)。
これらの業務においては、保険法・保険業法のみならず、保険実務全般に関する理解が不可欠である。例えば、保険金の支払い可否の判断においては工学・医学的知識が必要になるなど様々な知識が要求される。金融庁の監督を受けることから、金融庁の監督指針・検査マニュアル等を考慮した判断も求められることになる。
健全な保険制度を成り立たせるためには、個別案件の妥当な解決を目指すのみならず、背後の保険加入者全体の公平性を踏まえた法的判断を行う必要がある。保険金を得るために故意に保険事故を引き起こすモラル・ハザード案件にも対応する必要があり、反社会的勢力対応(クレーマー対応・民事介入暴力対応)に関する知識が要求される点も特徴的である。
また、損害保険業界の企業内弁護士が扱う仕事は、配属される部門により大きく異なる。保険会社は、保険契約に関して商品開発部門・募集人管理部門・契約管理部門・損害査定部門等の各部門を有するが、これらの各部門は、それぞれ特色を有し、異なった業務を行っている。企業内弁護士は配属先の各部門の特性に応じて、予防法務としての契約審査・募集スキームの構築、臨床法務としての保険金支払に関する紛争処理等の業務を担うこととなる。企業内弁護士が法務部・コンプライアンス部に配属される場合には、所属企業が法務部・コンプライアンス部に与える役割に応じて、様々な業務を行うことが考えられる。
いずれにしても、損害保険会社の企業内弁護士は、保険会社における企業法務の最前線を担うことになる。所属する損害保険会社の経営戦略を踏まえ、生の事実から複雑なスキームを組成していく過程に関与するのであり、法律事務所に所属する外部弁護士では関与できない判断を行うこととなる。そのため、法的素養を中心としつつも、保険実務における総合的な力量が問われることになる。
損害保険会社の企業内弁護士は、保険に関する高い専門性と総合的な判断力が求められるのであり、不断の努力は欠かせないものである。
近時、消費者保護が強く要請されており、法的正確性を持つと同時に平明な約款の作成が必要となっており、保険契約の内容である約款の作成には高度な法的判断が必要となっている。約款の解釈に高度な法的判断が必要とされることはいうまでもなく、保険募集や保険金支払に関して想定される様々なトラブルを防止するためには、保険に通じた弁護士の存在は必要不可欠である。
適正な支払態勢の確立は保険会社の責務であり、保険会社は法的問題に対して敏感にならざるを得ない立場にある。保険法施行や金融商品取引法の改正、民法債権分野の改正等により発生することとなる新たな法的問題についても、保険会社は適切な対策を講じておかなければならない。
以上のように、保険会社が法的問題に対応するニーズが益々高まっているのは明らかであり、企業内弁護士の需要は高まるものと考えられる。このような中、弁護士として保険会社の企業法務に関与できることは非常に刺激的であり、また、自らの付加価値を高めることにもつながるものである。
8:45 | 出社/メールチェック【出社時間の柔軟性は少ないが、早起きが得意に】 |
---|---|
9:00 | 始業【基本的に一日ずっと相談の電話が入ってきます】 |
10:00 | 部内打ち合わせ【検討中の案件について合議】 |
10:30 | 起案 |
11:30 | 社内法律相談【重要案件・複雑案件は早期のヒアリングが必要】 |
12:00 | 昼食 |
13:00 | 訴訟の準備、裁判所に移動 |
14:00 | 法廷 |
15:00 | 契約書の審査【スキームの説明を受け修正を指示】 |
16:00 | 電話で地方支社と打ち合わせ |
16:30 | 相手方の弁護士と交渉 |
17:00 | 起案 |
17:30 | 退社 |
18:00 | 弁護士会の委員会 |
20:00 | 懇親会 |
22:00 | 帰宅 |
従来、金融業界は、縦割り業法の下、銀行・証券・保険・信託等の業態に区分されることが一般的であった。
しかし、金融技術の発達等に伴い金融商品が複雑化する中で、業態の垣根は低くなり、同じ経済的機能を有する金融商品には同じルールを適用しようという考え方から、銀行・保険を含めて投資性の高い投資サービス分野には横断的なルールである金融商品取引法が適用される(銀行・保険は登録金融機関としての位置付け)。
このことからも分かるように投資サービス業務とは、金融ビジネスという面で銀行・保険と共通するものの、一般的に銀行・保険より投資性が高い業務分野を指す。典型的には、証券市場を通じて資金調達・資産運用を仲介などする証券会社や投資銀行をイメージすると分かりやすい。
投資サービス業は、大きく分けると、企業等の資金調達サイドに関わる業務と資産運用サイドに関わる業務とに区別できるが、その裾野は非常に幅広く取扱内容も多彩である。
いわゆる日本版金融ビッグバン以来、日本市場の競争力を強化すべく様々な制度改革や業界再編が行われ、金融インフラが構築されてきた。また、規制緩和とIT技術の進歩を背景に、ネット証券のような新たなビジネスモデルも生み出され、今後も、投資サービス分野は激しい競争の中で更なる金融イノベーションが期待される分野といえる。
この業界で働く弁護士の特徴として、配属される部門等により扱う仕事が大きく異なることが挙げられる。近年は、法務部門等だけでなく、M&Amp;A関連部署、投資顧問などの現場に近い部署に配属される例も増えてきている。
法務部・コンプライアンス部といったミドル・バックオフィス業務に携わる場合、各金融機関を規制する業法等も加味して、予防法務としての業務フロー構築時等の法的アドバイスや契約審査、臨床法務としての紛争処理、債権回収等が主な業務となる。これに対して、商品部門や企画部門等のフロントに近い業務に携わる場合、扱う分野は広くないものの、予防法務・戦略法務の観点を踏まえ、その分野に特化した専門的な法的知識および業務知識を活かした業務展開が求められる。法律事務所においては関与できないような生の事実から案件を組成していく過程で、実務センスをも備えた法的素養を中心とした力量が問われることになる。関連する法律を解釈さえすればよいのではなく,ホールセール分野の業務においては結論の現実的妥当性などが,リテール分野の業務においては投資家保護などの多面的視点が要求される。さらに、投資サービス分野においては、金融商品取引法を始めとする関連法規の改正が頻繁に行われるため、勉強は必須である。
いずれにせよ、実務家としては、高い専門性とスピード感を備えた判断力が求められ、不断の努力が欠かせない。そして、その緊張感こそが、この業界で働くインハウスの最大のやりがいの一つであり、かつ、付加価値の源泉でもある。
証券会社の収益の柱が株式から投資信託やM&Amp;Aの仲介等に変化してきたように、今後も貯蓄から投資、間接金融から直接金融への流れは着実に進むものと思われる。
かかる分野では既に業種を超えた競争が始まっており、これまで想定されなかったような新たなビジネスモデルも生まれ始めている。もっとも、現状では、高度な金融技術に関しては投資銀行や証券会社に一日の長があり、当該分野のフロントランナーは引き続き投資銀行や証券会社であろう。弁護士にとって、このような金融ビジネスの最先端分野に関与できることは非常に刺激的であり、また、自らの付加価値を高めることにもつながるであろう。
ここ数年、証券会社等における組織内弁護士の数は、急速に増加している。日系の証券会社等の場合、証券会社その他の金融機関出身者が比較的多い印象を受ける。外資系の証券会社等の場合、長年にわたり経営幹部として活躍されるシニアレベルの弁護士から新進気鋭の弁護士まで幅広い構成となっているようだ。投資サービスにおいては、金融商品取引法という関連する内閣府令さらには自主規制基準まで含めると膨大かつ詳細な規制体系を取扱い、証券等の実務知識が要求され、さらには各々の分野が激しく専門化していることから、プロフェッションとしての組織内弁護士に対する需要には根強いものがあると思われる。ただし、求められる資質等のレベルは、年々高くなっているようだ。
【日常業務で要求される法律分野】
【日常業務で要求される法律分野以外の知識】
8:30 | 出社/E-mailチェック 【出社時間の柔軟性は少ない。特に証券会社の場合は,朝が早め】 |
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10:00 | 打合せ(社内、投資案件のキックオフミーティング) |
12:00 | ランチミーティング【他部署のメンバーと情報交換を兼ねて】 打合せ(社外、取引相手と契約書に関して)【交渉相手が弁護士の場合も】 |
14:00 | 社内稟議書のチェック、上席(法務部長、リーダー)への説明 |
15:30 | 某案件の適法性について金融庁担当官と意見交換【金商法分野は判例が極端に少ない。法的疑義があれば所管庁への確認は怠れない】 |
17:00 | 社内会議(上席出席、契約交渉の進捗報告、案件に起用する弁護士について相談) |
18:00 | ドラフト(契約書、意見書、質問表)作成【まとまった時間のとれる18:00以降にドラフトをすることが多い】 海外部署との電話会議【時差との関係で海外との打合せも18:00以降にすることが多い】 社内勉強会【勉強会の講師を依頼されると資料準備等の負担がある。しかし、社内人脈構築の一助になろう】 |
21:00 | 帰宅【案件の進捗状況によっては深夜になることもしばしばある。また緊急の処理事案があれば当然遅くなる。】 |
T | キックオフミーティング(営業、経理、広報、法務等の各担当者レベルのミーティング) |
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T+3 | 上席への案件概要の説明(法務部長・リーダー) |
T+4 | 社内稟議書への意見書作成・担当(外部)弁護士選定 |
T+7 | 社内稟議書回付・法務部決裁 |
T+10 | 社内決裁完了・ドキュメンテーション開始 |
T+29 | 〆切直前【先月からの継続案件。ドキュメンテーションいよいよ大詰め!!帰宅は深夜】 |
T+30 | ドキュメンテーション〆切 |
T+31 | 契約書作成(相手方社内にて捺印回付) |
T+32 | 契約書作成(当社内捺印回付) |
T | 営業部よりクレーム対応につき相談受ける(上席と対応協議) 営業部に資料の送付依頼(担当者からヒアリング) 弁護士事務所にアポ取り【クレーム対応は初動対応が重要。即時対応!!】 |
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T+1 | 外部弁護士事務所に対応策を相談(@弁護士事務所)【費用(弁護士費用)概算も確認】 上席に報告【依頼に関する社内稟議の事前決裁の意味合い】 社内稟議書(弁護士依頼のため・弁護士報酬の支出決裁)作成・回付 |
T+2 | 弁護士へ対応を正式依頼 |
T+3 | 護士より報告あり(訴訟に発展するおそれあり) 上席に報告 |
T+20 | 訴状受領【弁護士の報告どおり、訴訟に発展!!】 弁護士事務所に連絡【社内での調査・答弁書の内容確認(ときには修正)・決裁に要する日数を考えて、スケジュール設定】 |
T+23 | 答弁書ドラフトを受領。 上席と協議のうえ、修正・ドラフトを返送 |
日本独自の業態である総合商社のビジネスの最大の特徴は、取り扱う商品・サービスの多様性である。日常の生活で目にする商品やサービスの殆どに何らかの形で総合商社が関与していると言っても過言ではないと思われる。
具体的には、金属、機械、エレクトロニクス、資源・エネルギー、化学品、繊維、食糧・食品、消費財など多岐にわたる商品・製品の仕入、販売、流通、及びマーケティング等の国内外の商取引全般などのほか、販売先及び仕入先に対するファイナンスの提供、出資、都市及び産業インフラ整備プロジェクトの企画立案・調整及び管理運営、輸送・物流、更にはバイオテクノロジーから情報通信産業への営業ベースに乗らない段階での関与まで様々なサービスの提供を行っている。
ビジネスモデルとしては、従来はローリスク・ローリタンの口銭ビジネスが中心だったのが、幅広い産業分野への投資やM&Amp;Aを通じて、自らリスクを取って主体的に投資先の事業や経営に関与するビジネスが増えている。なお、こうした動きの背景には、生産・流通・小売までを備えた一体型企業が増えてくるなど、従来の商社取引である仲介取引の需要が減りつつあるという事情もあると思われる。
組織内弁護士の配属に関しては、法務部門に集中している点に特徴がある。この点、最近は、伝統的な「法務部」とは別に、内部統制やコンプライアンスを主管する専門部局が設けられるようになったので、ここに組織内弁護士が配置されることも考えられる。とはいえ、こうした広い意味での「法務業務専門部局」を超えて、例えば、特定の営業部門へ配置されるケースは今のところ見受けられない。この点、一部メーカーや金融機関で、営業・事業部門や、特許部といった特殊専門部局への配置があり得ることとは対照的である。また、組織内弁護士のみならずあらゆる法務部員が、少数の海外駐在者という例外を除き、本社に集中配属されていることも特徴であろう。
法務部門内のセクション割や、そのうちのどのセクションに組織内弁護士を配属させるかについては、総合商社内でもその対応は各社各様である。まず、セクション割については、国際・国内部門(さらに国際については地域)でセクションを分けている会社もあれば、どの営業部門の案件を担当するかによってセクションを分けている会社もある。次に、組織内弁護士をどのセクションに配属するかについてであるが、日本法についての強みがある(であろう)ことを重視して国内法務が多いセクションに配属させる会社もあれば、そのようなことは全く拘泥しない会社もある。この点、他の業界に比べると、日本の弁護士資格を持っていることを特に考慮して配属・業務を他の法務部員と異ならせることは少ないのではないかと思われる(その理由については後述「業界と弁護士の展望」参照)。いずれの場合にも、その取扱業務は、前述のようなビジネスの多種多様さ故に極めて幅広いと考えてよい。
総合商社の法務部門の業務は、日々寄せられる営業部門からの相談対応及び契約書等の作成・チェック、訴訟・紛争対応、取締役会・株主総会対応、債権回収業務(支援)、知的財産管理等である。その業務割合も各社各様であるが、他の業界の法務部門と比較すると、相談対応・契約書等の作成チェック業務の負担割合が高く、また、これらを英語で行う機会が多いことが特徴と思われる。
組織内弁護士をはじめ、法務部門に期待される役割は、営業部門に対する「支援」と「牽制」であり、これらが謂わば車の両輪となっている。
支援業務とは、営業部門がとり進めたいと思っている将来の案件や、不祥事(ないしそれに発展しかねない事項)への営業部門として取りたい対応策について、これを法務的な観点から実現できるよう力を貸す業務である。この支援業務においては、営業と法務の目指す方向は同じであるので、法務が多種多様な業態や営業部門の意向をよく理解し、実態に則した実のある意見を述べたり書類を作成したりしさえすれば、それらは尊重・感謝されやすい。
牽制業務とは、営業部門がとり進めたいと思っている将来の案件や、不祥事(ないしそれに発展しかねない事項)への営業部門として取りたい対応策について、法務的な観点から問題がないか確認し、問題があればかかる案件・対応策を進めないよう、止める業務である。この牽制業務においては、少なくとも表面上は営業と法務の目指す方法が異なる。そこで、牽制業務においては、支援業務同様、実態に則した実のある意見・書類を準備することはもちろん、支援業務等他の機会を通じ、「あの人の言うことは聞くべきだ」と言ってもらえるような信頼関係を普段から営業部門との間で構築しておくことや、ただ「NO」というだけでなく、代替案の提案・実行力のあることが重要となる。
他の業界に比べると、総合商社に勤務する日本の弁護士資格保持者の数は多い。また、日本の資格ではなくとも、ニューヨーク州、カリフォルニア州、英国、中国を始めとしたアジア、南米といった海外の弁護士資格を持つ法務社員は少なくない。さらに、日本の企業としては珍しく、有資格者か否かにかかわらず、法務部員(組織内弁護士)の中には他社へのまたは他社からの転職者が比較的多く、こうした転職者の取り扱いに会社・業界自体が慣れている。また、新人・中途採用者、有資格者、無資格者といった違いも踏まえての、独自の教育・研修プログラムを通じた法務部員育成体制が整っていることが多い。加えて、長年にわたって付き合いのある顧問弁護士や外部弁護士がおり、その者らとの具体的案件対応を超えた交流が行われ、また広く国内外の弁護士情報がデータ化されていることも珍しくない。所蔵書籍や使用可能な法務関連のデータベースも多く、また、経団連・同友会・日本貿易会等の所属団体を通じて法令改正を担当する官庁や日弁連との情報交換の場も持っている。
それ故、総合商社側は、特に日本の弁護士資格保持者であるだけで弁護士を採用するのではなく、何のために、どのような資質を持つ人材が必要かを明確にイメージしており、あくまで個々の弁護士の実力や意欲を問う傾向が強い。また、弁護士会費の負担等、資格維持費用の会社負担の他は、資格保持による優遇処置は行われていないところが殆どと思われる。もっとも、業界自体の給与水準が日本企業としては比較的高いことや、元々法務部門が大きく、社内でもその役割が重視されていることから、潜在的には組織内弁護士がさらに増える余地はあると思われる。なお、従来は日本の有資格者を採用する際には正社員扱いであることが多かったが、最近の動きとしては、主に渉外事務所所属の弁護士が、海外留学後、海外の弁護士事務所に勤める代わりに総合商社の海外駐在事務所に短期間勤務したり、いわゆる「国内留学」先として総合商社本社に短期出向したりするようなケースも散見される。弁護士が、日本の終身雇用制度を前提とした企業の「正社員」としてではなく、柔軟な労働形態で総合商社の業務に関与できる道が開けたことは、特筆に値しよう。
かつては、土地価格は必ず上昇するという土地神話が存在したため、将来の価格上昇によるキャピタル・ゲインを期待した不動産所有が一般的であったが、バブル崩壊とともに土地神話も崩壊したため、他の商品と同じように不動産についても、当該不動産の利用価値を基準に収益還元法で評価する考え方が定着してきている。
こうした中、不動産業とは不動産の利用価値を高めることで利益を生む事業と定義できよう。従来、①土地を取得して造成し住宅等を建設して分譲する「分譲業」、②オフィスや住宅などの賃貸を行う「賃貸業」、③オフィスや住宅、土地などの売買、賃貸の代理、仲介などを行う「流通業」、④賃貸ビルや分譲マンションなどの維持管理を行う「管理業」に大別されたが、近時はこうした垣根を越えてトータルで不動産を「マネジメント」することによりその利用価値を高めるビジネスが志向されている。
例えば、築年数が経過して収益力の低下した物件を安値で取得した後、大規模に改修して賃借人を入れ替え、継続保有して上昇した賃料収入を享受しつつ、機会があれば高値で売却するなどである。
また、近時の傾向として、資金調達の手法、あるいは保有不動産の売却手法として、REITを始めとした証券化が用いられることが増加しており、従来の不動産業の枠に留まらず、金融業との融合も進んでいる。
法的瑕疵は不動産価値に重大な影響があるため、この業界で働く弁護士には、宅地建物取引業だけでなく、建築基準法関連の基礎的知識も要求される。
また、法的知識にとどまらず、その前提として技術的理解も要求されるが、弁護士が独力で理解することは困難であり、1級建築士など他資格者との協同が要求される機会も多い。
証券化業務を手掛ける不動産業者などは、金融商品取引業者でもあるため、ここで働く企業内弁護士は、金融商品取引業法についての知識も必要である。
不動産に関するあらゆる場面に関与することになるが、契約書レビューなど大量に発生する法律事務については外部の法律事務所に外注し、外部弁護士の業務遂行を管理する業務が職務の大半を占めている企業内弁護士も少なくない。
不動産は比較的安定したキャッシュ・フローを生み出すことから、依然として安定資産として重視されているとともに、今後は投資対象としても益々重視され、不動産業と金融業との融合が進んでいくことが予想される。
また、不動産は一つ一つの価値が大きく、特に土地については同じものが2つとなく代替も効きにくいため、多数の利害関係者を巻き込み、法律関係も複雑となりやすい。
従来から、不動産分野と金融分野は弁護士の職域として中心的なものであったが、今後とも、この傾向に変わりはなく、むしろ不動産の利用価値を高めるための手法が高度化していくとともに、社外弁護士にとどまらず、社内弁護士に対する需要が大きく増大していくと考えられる。
通信事業は電気・ガス等と並ぶ公益事業であり、国家主権にも関わることから、かつては国による強い事前規制下にあった。
それが1985年の通信自由化以降の規制改革の流れの中で、新規事業者が激増するとともに、インターネットや携帯電話をはじめとする劇的な技術革新によって多種多様な新サービスやビジネスモデルが登場し、それに伴い事前規制では解決できない新たな法的課題が頻出しているのが現状である。
規制業界として従来は社内で法務担当よりも渉外(規制)担当の役割が大きく、本業界の企業内弁護士は現時点では比較的少数であるが、新たな法的ニーズに対応するため積極的に企業内弁護士の起用を図る新規事業者も現れている。
本業界の規制法規の中心は電気通信事業法であるが、本法の目的は上記のとおり規制改革の流れの中で公共性の確保に留まらず相互接続ルール等競争政策的側面が強くなっている。このため企業内弁護士には事業法とともに欧米も含めた競争法の知識が求められる。
また、サービスの多様化や料金の複雑化に伴い、携帯電話の¥0広告で問題となったような景品表示法・特定商取引法等の消費者保護法の分野も重要性を増している。 さらに、通信事業者間の紛争や通信事業者の大型倒産案件、国内外のM&Amp;Aもごく普通のこととなってきており、その対応には当然十分な法的サポートが欠かせない。
本業界で特徴的な法分野として通信の秘密がある。憲法上の保証とともに事業法上漏洩が刑事罰の対象とされるなど伝統的に厳格な保護が図られてきた。他方、ネット上での名誉権・プライバシー権・著作権等の権利侵害に対応するためプロバイダ責任制限法が制定されており、企業内弁護士は通信の秘密と権利侵害の救済のバランスを取った判断が求められる。
また、個人情報保護法等の情報セキュリティの分野も通信事業者にとっては特に重要である。個人情報漏洩事件は会社の社会的信用の失墜と法的責任に直結する。
上記に加え、知的財産権、ハイテク犯罪等ITに関わるサイバー法とも総称される先端的な 法分野について、本業界の企業内弁護士は事案の対処にあたるのみならず、業界ガイドライン等のソフトローの形成にも寄与することとなる。
光ファイバーによるブロードバンドの普及に加え、NGN(次世代ネットワーク)商用サービス開始、固定と携帯の融合、携帯電話の販売奨励金見直し等通信業界は新たな変革期を迎えている。
こうした中、通信と放送の融合を視野に入れ、従来の「縦割り」から、コンテンツ・プラットフォーム・ネットワーク等の「レイヤー構造」への転換を標榜した情報通信法(仮称)の制定が総務省で検討されている。実現すれば業界の法的環境は大きく変わり、業種を超えた競争の激化や大規模な業界再編も予想されるところである。
今後本業界の法的ニーズが高まること自体は確実であり、新たな法的課題と労働問題等オーソドックスな法的紛争の双方に対応できる法律家としての高い能力とともに、ITとビジネスにも強い企業内弁護士の進出が期待されている。
我が国において商用インターネットの提供が開始された1992年以降、インターネットを利用した様々なサービスビジネスが生まれ、我々の日常生活に大きな利便と効用をもたらしている。
ネット検索サービス、音楽や動画などの配信サービス、掲示板・ブログ・SNSなどのフォーラム提供サービス、仮想商店街やオークションなどの商品流通サービス、更にはオンラインゲームの開発・提供など、日々様々なサービスが生み出され、私たちの生活に無くてはならない存在となった。
この分野は産業としても成長著しく、瞬く間に企業間のM&Aや合従連衡等の主役に躍り出てきた。
その一方で、あまりに急速に発展した技術であり業界であるため、様々な負の面が生じていることも事実である。ネット掲示板による著作権侵害や名誉毀損、出会い系サイトを介した性犯罪被害、などは重大な社会問題となっている。
また、無限に広がるネットの特徴から、小さなミスから損害が瞬く間に拡大するリスクが高い。
情報漏洩、著作権侵害物の流布、システム障害の連鎖反応、対消費者取引における消費者保護など、どれも、1つのミスで損害が無限に広がるリスクを負っている。 従って、この業界における法務部門は、当該企業の存亡にかかわるような大きなリスクを日常的に発見し手当てするという重大や役割を担っている。
この業界で活躍する弁護士は、IT技術と法律技術の双方において日々情報を更新して最先端にあわせ、かつ、自らもクリエイティブであることが求められる。
さもなくば、技術の陳腐化、新規サービスの登場、それらに対応した頻繁な法改正などにより日々変化し複雑化する業界のスピードにはついていけないだろう。
その反面、これについていくことができれば、ビジネスの最先端に常に関わり、また、場合によっては弁護士でありながら自ら新たなビジネスやサービスを生み出すというクリエイティブな活動に従事することも可能だ。
純粋な通信業界の弁護士に比べると、労働、知財、商事、金融、渉外といった企業法務全般の知識が必要となるウェイトが大きいのもある意味この分野の特徴といえるだろう。
情報の伝達が主な役割であったインターネットは、次第に情報の共有を担い、現在では、端末に代わってサービスを提供する役割も担う。前述のように、この業界は変化が激しく、弁護士は柔軟な対応力がとにかく求められる。
おまけに、業界の歴史が短く、規模が急速に拡大した企業でも、いまだベンチャーの色彩が強く、特に管理部門の専門的な人材の養成が進んでいない。このことは、特に労務問題、子会社管理、総会運営等従来法務部門以外の部署が扱っていた事項が法律問題として法務部の業務として扱われる傾向があることを意味し、その結果、当然、法務の業務の幅は広くなる。
こうした事情から、この業界では即戦力としての企業内弁護士が受け入れられやすい。特に若くて柔軟な弁護士に対するニーズは高く、この傾向は変わらないだろう。
従来のテレビ、エンタメ業界は、放送事業免許に基づいてテレビ放送を行うテレビ局、書籍や雑誌を企画出版する出版社、映画を製作する映画制作会社、映画を配給する映画配給会社などは、それぞれ異なった業種として機能してきた。
しかし、最近ではこうした業種間の垣根が崩れ、相互に共同して様々な事業を行うようになってきている。
例えば、人気の出た漫画をテレビ局、出版社、映画制作会社が共同でドラマ化と映画化を同時に行い、更には商品とのタイアップやイベントの開催なども含め、それらを一体としてマーケット戦略をするビジネスモデルが急速に発展してきている。
また、マスコミという点でいえば、従来から名誉毀損やプライバシー侵害など、市民との間の軋轢も少なくないが、近年はコンテンツ流通の多様化によりその類型や法理論も複雑になってきている。
コンテンツが様々な媒体で流通するようになり、権利処理・人権保護いずれの観点からも、これまで以上にコンテンツ制作業界に対して積極的な法務戦略や予防法務が求められているといえる。
更に最近では、人権擁護に名を借りた表現規制といった動きも見られる。きちんと理論武装して表現の自由を守ることもこの業界にとって大切な法的課題となっている。
この業界で働く組織内弁護士の特徴は、他の業界には見られないいわゆるメディア法とエンタメ法の分野を中心的に扱っていることである。
メディア法(Media Law)とは、マスコミの表現の自由に関する法分野全般を指す。名誉毀損法、プライバシー法、肖像権法、記者の証言拒否権、証拠開示拒否権、などが含まれる。
エンタメ法(Entertainment Law)とは、エンターテイメントに関する法分野全般を指す。著作権、パブリシティ権、その他これらを中心とした各種ライセンス契約や、放送権、イベント主催権など、契約上の権利、などが含まれる。
報道機関としての色彩が強い事業においては前者が、エンタメとしての色彩が強い事業では後者が特に重要となるが、2つの法分野は一体となって検討する必要があるため、常に総合的な検討が必要である。
テレビは基本的に安定収入を前提としたビジネスモデルであるために従来資金調達や信用リスクの心配はほとんどなかったが、近年は映画制作などにも業務を拡大し、こうした分野の知識も不可欠となってきている。
放送法改正に伴い放送持株会社が解禁され、地方系列局や映画、出版などのマスコミ・エンタメ業界全体を巻き込んだ大きな業界再編が起こっていく。
更に、現在計画中の新たな情報通信法が整備されれば、通信分野も含めた更なる業界再編が進み、これまでにない巨大メディアグループが誕生することになる。
今後、この分野を専門とする弁護士の需要は急速に拡大することが予想されるが、現時点ではノウハウを持つ法律事務所は限られており、各社は若い弁護士を自前で育てることも必要となろう。
非常に特殊な分野であるため、この分野で経験を積んでもいきなり1人で独立というのは難しいかも知れないが、数人でブティックファームを設立すれば需要が見込まれそうである。その意味でキャリアとしての価値は高い。
金融庁は、その前身として平成10年に設立された金融監督庁を平成12年に改組して設置された行政機関である。現在は内閣府の外局として位置づけられ、その下に証券取引等監視委員会と公認会計士・監査審査会が置かれている。
金融庁の特徴としてあげられるのは、民間出身の職員が多いことである。特に銀行や証券会社等の民間金融機関出身の職員は非常に多い。また、いわゆる専門家も弁護士のみならず、公認会計士、不動産鑑定士、アクチャリー(保険計理士)など様々な資格と能力を持った職員が所属している。任期付の弁護士の採用人数が最も多い行政機関でもある。
金融庁の組織は、総務企画局・検査局・監督局の3つの局から成っている。総務企画局は金融関係の法令や制度に関する企画・立案等を行っており、例えば銀行法等の金融関連の法令の制定・改廃に関する職務を行っている。検査局は金融機関に対する検査を行うことを職務としており、立入検査を通じて当該金融機関の法令等の遵守態勢や各種のリスク管理態勢の検証を行っている。監督局は金融機関の業務運営を継続的にモニターすることが職務であり、日常的に金融機関に関する情報を収集するなどし、その状況把握を行い、時には監督処分を行っている。
昨今、金融庁については毎日のように報道等で話題にされており、そのような注目された職務の中で能力を活かすことができるというのも魅力のひとつである。
金融庁で働く弁護士の職務の特徴は、それぞれの所属する部局によって相当に異なる。 総務企画局の弁護士は、法令案等の立案やそれに関する各界の意見調整、内閣法制局の審査への対応などを行う。
検査局の弁護士は、検査マニュアルの改訂等のバックオフィス的な職務をこなす一方、実際に金融機関への立入検査に従事する。
監督局の弁護士は、各部署からの法解釈に関する照会への回答やノーアクションレター制度の運営、監督指針の改訂作業、金融機関への監督処分などを行う。
また、いずれの部局を問わず弁護士は、法令等遵守調査室のメンバーとなり内部通報等への対応業務を行う場合もある。
所属する部局が関係する訴訟が存在する場合、訴訟対応に弁護士が関わるケースも多い。
日本経済の持続的な成長のためには金融市場の競争力強化等が必要であるとの考えの下、今後さらに金融庁が果たすべき役割は重要になっていくことが予想される。そのような中、金融庁職員の資質向上のために専門性のある人材の任期付採用を拡充することも示されており、弁護士が金融庁内で活躍する場面は今後も減ることはなさそうである。
金融庁で金融行政の経験を積んだ弁護士が法律事務所に戻り、肌で学んだ金融庁の考え方を顧客に伝えることについては需要も少なくない。さらには金融機関の社内弁護士となり、より直接的に行政の考え方を金融機関の運営に活かしていくことも、もっと増えてよいだろう。
金融庁は一時、金融機関等とのコミュニケーションが足りないとの評価を受けることもあったが、金融庁で働いた弁護士が両者の架け橋となることも今後期待されるところである。
外務省は1885年内閣制度設置とともに設けられ、外交事務を担当する。外交事務の内容は多岐にわたり、その例として外交政策、外国政府との交渉及び協力等の外国に関する政務処理、国際機関及び国際会議等の国際協調の枠組みへの参加、条約等の国際約束の締結、渉外的法律事項の処理、国際情勢に関する情報収集、分析及び調査、日本国民の海外における利益保護及び増進、海外における在留邦人の保護、外交文書の発受等の外交上の通信、並びに文化広報活動が挙げられる。
このような外交事務を担当するという性質上、その職務遂行については語学力や知識など外交に関する高度の専門性が要求される職種である。他方外務省は民間から専門的知見を有する者を任期付職員として採用している。その一環として、外務省は弁護士が有する法律的知見に着目し、近時弁護士を任期付職員として積極的に採用している。
外務省は弁護士の有する法律的な知見、とりわけ国際取引や知的財産権などの経済的な分野や人権分野における知見に着目して弁護士を任期付職員として採用していることから、外務省における弁護士は経済・社会分野における国際約束の締結、解釈、実施に関する業務に従事する者が多い。
外務省は弁護士の有する法律的な知見、とりわけ国際取引や知的財産権などの経済的な分野や人権分野における知見に着目して弁護士を任期付職員として採用していることから、外務省における弁護士は経済・社会分野における国際約束の締結、解釈、実施に関する業務に従事する者が多い。
しかしながら、外交の局面で法的知見が要求する場面はこれに限られないため、弁護士が従事する職務も上述分野以外にも広がりつつある。例えば、現在、経済連携協定(EPA)に関する事務(EPA交渉を含む。)、WTOに関する協議及び紛争に関する事務、知的財産に関する多数国間条約や国際機関等に関する事務、及び在外公館において日本企業や在留邦人のために業務を行う事務の各分野において、弁護士が執務を行っている。
外交事務には国際約束の締結や渉外法律事務の処理など、法的知見を必要とする事項は多い。加えて、そうした法的知見は、外務省におけるあらゆる業務において必要とされる傾向にある。そのため、外務省における弁護士の執務のチャンスは決して少なくない。
むろん、外交事務は非常に多岐にわたるため、弁護士業務とは関連性を持つものも持たないものもある。そのため、外務省での執務を通じ専門分野を開拓したり得意分野を伸ばしたりことが可能な場合もあれば困難な場合もある。しかし、国を代表して外交事務を取扱い、国益を実現するという、通常の弁護士業務では絶対に行うことができない醍醐味を有する職務は、一生に一度は体験する価値がある。
公正取引委員会は、独禁法を運用するために設置された機関(独立行政委員会)であり、下請法、景表法の運用も行っている。
公正取引委員会による独禁法の執行は、1989年からの日米構造問題協議等を経て、大幅に強化されてきた。これに伴い、法的措置件数が増加し、その対象となった事業者側が違反行為の有無等に関して公正取引委員会が行う訴訟類似の手続(審判手続)において法的措置の内容を争うケースも増加してきた。また、平成17年の独禁法改正では、談合やカルテルを自ら申告した事業者が課徴金の支払を免除・減額される課徴金減免制度等が導入され、摘発がより一層強化された。今後も独禁法による規制は強化されていくことが見込まれる。
近年、企業買収等M&Aが増加しているが、市場の寡占化が進むなどして悪影響を及ぼすおそれもある。公正取引委員会では、企業買収等について届出・報告制度を設け市場への影響を監視している。
独禁法の執行強化は国際的な潮流でもあり、公正取引委員会においても、国際会議の開催や各国当局との情報交換などを通じて、国際的事案の処理にも注力している。
事件処理を通じた独禁法解釈・法理論の深化を踏まえて、効果的かつ適正な法執行を行い、競争秩序の維持・促進を図ることが公正取引委員会の重要な役割である。
公正取引委員会で勤務する弁護士出身者の勤務内容は、上記の業務の多様性に応じて様々である。
まず、審査官として、独禁法違反被疑事件について、関係する事業者に立入検査を行う等して事案の解明を行い、行政処分の内容を検討する者がいる。
また、審査官の中には、行政処分後に審判手続が開始された場合に、刑事裁判における検察官のように、処分の適法性等を主張立証する業務を行う者もある。審判手続において、裁判官的な役割を担う審判官にも、弁護士出身者が採用されている。審判手続後に審決取消訴訟が提起された場合に、訴訟対応業務を行う者もいる。
さらに、独禁法の改正作業においても、弁護士出身者が立案作業に加っているほか、国際会議において法執行の国際的調和等について討議に加わる機会もある。
公正取引委員会は積極的な法執行のために組織を拡大してきており、弁護士の採用も増加していることから、新たな弁護士採用の募集もあるのではないかと思われる。
公正取引委員会の法執行が拡大・強化されていくことから、規制対象となる事業者側においても、この分野を専門とする弁護士の需要が拡大しており、今後も活躍の場が広がっていくことが予想される。既に、公正取引委員会における任期を終了した弁護士が法律事務所において、また企業内弁護士として、活躍を始めている。
現在、独禁法分野に関しては大手事務所や、いくつかの中小規模事務所が中心的に活動しているが、今後は公取委での勤務経験を有する弁護士が公取委内部における経験を生かして専門的なアドバイスを行い、代理人としての活動を広げることが期待される。
証券取引等監視委員会(証券監視委)は、平成4年7月、一連の証券・金融不祥事を契機として大蔵省内に設立され、現在は、内閣府の外局である金融庁の下に置かれている。
証券監視委の組織は、委員長及び委員2名で構成される合議制の委員会の下に、総務課、市場分析審査課、証券検査課、課徴金・開示検査課、特別調査課の5課からなる事務局が置かれているほか、地方組織の財務局にも職員が配置されている(平成19年度末の合計職員数は609名)。
証券監視委は、監督行政部門から独立した証券市場のルール遵守の監視役として、審査・検査・調査等の活動を行っている。市場分析審査課では、日常的な市場監視、市場動向の分析、情報受付等を通じて、情報収集・分析・審査を行っている。証券検査課では、金融商品取引業者(証券会社や登録金融機関等)や自主規制機関(各取引所等)に対して、法令遵守・財務の健全性などについて検査を行っている。課徴金・開示検査課では、有価証券報告書等の開示書類の検査、これらの開示書類の虚偽記載やインサイダー取引等に対する課徴金調査を行っている。特別調査課では、有価証券報告書等の虚偽記載や損失補てん、相場操縦、インサイダー取引などの悪質な行為について、告発により刑事訴追を求めるための調査を行っている。証券監視委はこれらの活動の結果、行政処分等の勧告や刑事訴追を求める告発を行う。
昨今、証券取引委に関しては報道等で頻繁に話題にされており、そのような注目された職務の中で能力を活かすことができるというのも魅力のひとつである。
証券監視委は、上記のような活動を行っている関係上、銀行や証券会社等の民間出身の職員や、公認会計士などの専門家を数多く採用している。弁護士は平成20年4月現在、本庁だけで、市場分析審査課1名、証券検査課2名、課徴金・開示検査課1名が在籍しているが、採用人数は今後増加していく傾向にある。
市場分析審査課の弁護士は、情報の分析や取引の審査等を行う過程での検討、相談対応等を行っている。証券検査課の弁護士は、業者等に対する検査内容等を審査し、検査結果のとりまとめなどを行う。課徴金・開示検査課の弁護士は、課徴金調査や開示検査の指揮、助言、法令解釈の検討、検査・調査結果のとりまとめなどを行う。
また、地方の財務局でも積極的に弁護士を採用している点でも特色がある。
証券監視委の職員数は年々増加しており、取引審査実施件数、告発、課徴金や行政処分の勧告件数も増加している。日本の証券市場は、金融商品・取引の複雑化・多様化・グローバル化や、金融商品取引法の施行など、ダイナミックに変化してきており、これらを踏まえた証券監視委の役割やその重要性・注目度は今後ますます高まってくるものと思われる。
優秀な検査官の供給源として弁護士は最も注目されており、採用人数は確実に増えている。地方金融機関の検査のための地方財務局での採用も増加しており、他の行政庁と異なり、地方の弁護士も生活を変えずに転職が可能である。
証券監視委に勤務した経験のある弁護士はまだ少なく、任期終了後の弁護士業務においても、ニーズが日増しに高まっている。