2021.02.02| オンラインジャーナル
第一人者が解説 するタイムスタンプの展望
4. 企業におけるタイムスタンプの活用方法
(1)法務・知財部門
法務・知財部門との関係では、主に情報管理の観点から次のような活用方法があります。
- 自社の発明について、たまたま他社による特許出願があっても、従前からその発明を実施(又は実施を準備)していれば、先使用権(特許法79条)を主張することができますが、自社の発明について、たまたま他社による特許出願があっても、従前からその発明の実施である事業(又はその事業の準備)をしていれば、先使用権(特許法79条)を主張することができますが、自社の発明の事業化計画等にタイムスタンプを付与しておけば、先使用が証明しやすくなります。
- 他社とNDAを結んで秘密情報のやりとりをする場合に、社外に出す情報に予めタイムスタンプを付与しておけば、開示前の時点で自社が保有していた情報であることを証明しやすくなります。
- 他社とのメールのやりとりや議事録等について、作成時にタイムスタンプを付与しておけば、事後的に紛争が生じた場合でも、紛争後の改ざんの可能性を払拭することができます。
- コンプライアンス上、改ざんが許されない社内文書を作成した場合には、タイムスタンプを付与しておけば、事後的な改ざんの可能性を払拭することができます。
(2)経理部門
経理部門との関係では、税法上保存が義務付けられる国税関係書類(見積書、注文書、契約書、請求書、領収書等の取引関係書類)をスキャナ(スマートフォンやデジカメでの撮影含む)で電子化して保存する場合には、上記の日本データ通信協会の認定制度に基づく認定タイムスタンプを付すことが要件となっています(電子帳簿保存法施行規則3条5項2号ロ。ただし、令和3年度税制改正大綱では、この点の見直しを行うこととされており、データの変更や削除を事後的に確認できるシステムを用いる場合には、認定タイムスタンプの付与は必須の要件ではなくなる見込みです。)。
また、取引先との間で取引関係書類を電子データで送受信する場合、発行者側又は受領者側で認定タイムスタンプを付与すれば、そのまま保存することができます(電子帳簿保存法施行規則8条1項1号及び2号)。2023年10月から適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)の開始が予定されており、事務負担軽減のため請求書等の電子化がさらに進むと思われるため、タイムスタンプの一層の活用が期待されます。
その他、以下のような各種ガイドラインにおいて、電子データの保存等に際し、認定タイムスタンプの使用が指定又は推奨されています。
医療分野 | 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5版(厚生労働省) |
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知財分野 | 先使用権制度の円滑な活用に向けて 第2版(特許庁) |
建築分野 | 建築確認手続き等における電子申請の取扱いについて(技術的助言)(国土交通省 国住指第394号) 建築確認手続き等における電子申請の取扱いについて(技術的助言)(国土交通省 国住指第394号) 建築設計業務における設計図書の電磁的記録による作成と長期保存のガイドライン(日本文書情報マネジメント協会) 建築工事における書面・図面の電子化/保存ガイドライン(日本建設業連合会) |
環境分野 | 計量証明書の電子交付等の運用基準(ガイドライン)例示(日本環境測定分析協会) |
消防分野 | 消防同意等の電子化に向けたシステム導入対応マニュアル(消防庁 消防予第269号) |
契約関係 | 電子契約活用ガイドライン(日本文書情報マネジメント協会) |
その他 | JNLA試験証明書の電磁的方法による発行について(製品評価技術基盤機構 認定センター(IAJapan)) |
タイムスタンプ認定制度に関する検討会(第9回)資料9-1 29頁より
(3)電子署名された文書の長期保存
さらに、タイムスタンプは、電子契約等に施された電子署名の有効期限を延ばす用途でも用いられます。電子署名には暗号が使われていますが、時間の経過に伴う暗号解読技術の発展やコンピュータの処理能力の向上によって、暗号が破られるリスクが増大するため、電子署名(それを証明する電子証明書)には一定の有効期限(通常1~3年)が設定されています。
電子データに施された電子署名の有効期限内に、当該電子データと電子署名の検証情報を合わせたものにタイムスタンプを付与すれば、電子署名の有効期間が切れても、そのタイムスタンプの有効期限内(通常10年)は、電子署名の有効性を証明できます。電子署名を施す際にタイムスタンプを付与しておけば、当初から10年の有効期限を確保することができます。
さらに、タイムスタンプの有効期限前に、新たなタイムスタンプを重ね掛けすることで、より長期の保存が可能となります。
タイムスタンプに関する最近の議論>