日本組織内弁護士協会(JILA)は、組織内弁護士およびその経験者によって創立された任意団体です。

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2020.11.25| オンラインジャーナル

霞ヶ関弁護士というキャリア

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3. 生かすも殺すも巡り合わせ

ここでは敢えてリアルな話をします。官庁に夢を持って入ったものの、「こんなはずじゃなかった」と思われても辛いので・・。

 

まず申し上げたいのは、官庁と一言で言っても、その部署のその時周辺にいる人員により、日々の雰囲気から残業時間、職掌までがいかようにでも変わります。同じ部署でも家族のように和気藹々としている空間から、数メートル以内に近づくと負のオーラがうつりそうな地獄の空間まで、コロコロと変化するのを私は間近で見ました。

これが大きな組織の現実です。それを事前に予測することは出来ませんので、もしババを引いてしまった場合には、ご自身の判断で対処されるしかないのですが、できる心がけはあると思います。

 

まず、このようなことは言いたくもないのですが、驕らないことです。仮に法律所管部署であったとしても、着任時には自分が一番その法律を知らないことが当たり前なので、その前提で行動しないと普通に嫌われて終了です。若手弁護士が大学時代の成績の序列に引きずられてプロパー職員にイキったりすると最悪ですのでご留意下さい。

 

次に、人に聞くことです。私は霞ヶ関にいる間は基本的にずっと喋っていました。本当です。メール、チャット、電話が仕事のベースですし、紙を作る時もその辺に座っている同僚と相談しながら作るようにしていました。(残業もしくは飲み会で)基本的に寝不足だったので何かを読もうとすると寝てしまうのでそうしていただけという側面があり私の例は極端かもしれませんが、少なくとも外様だから遠慮してしまうとか、自分で調べれば分かるかななどと頑張るのは、逆効果です。

誰か知っている人に聞いて、とにかく前に回すことが業務の基本だったと理解しています。このノリを法律事務所で引きずると嫌われる気はしますが・・。

 

これに関連して、経済産業省に限った話かもしれませんが、受け身では楽しく仕事はできません。実は着任してみたものの、案外暇ということもあるかもしれません。先方は、何を振るべきか何ヶ月も様子見していることもザラです。余暇を満喫しても良いのですが、大きな仕事をしている組織ですから、積極的に何かを取りに行くことで得られる効果も計り知れません。

 

私は自分の後任に、「この組織は実はシームレスだから、他部署の仕事もガンガン取りに行くように」と伝え、彼は入ってから別の部署と併任をかけてもらいました。

 

オフレコですが、任期中の事実上の異動ですら可能なのではないかと個人的には思います。自分が将来伸びていきたい方向を見据えて行動することができればベストですが、そうでなくとも、ちょっと面白そうという程度でも、どんどん首を突っ込んで吸収する絶好の機会かなと思います。

しかも外様なので、ある程度は無礼講も織り込み済みなのではないかと勝手に解釈しています。お堅いイメージのある官庁ですが、中での日々は驚くほどに自由でした。

 

人との兼ね合いもありますので限界はあると思いますが、これを機に人間力をも磨くという意気込みも含め、皆様の思うような環境を整え、楽しく絵を描いていただきたいと思います。

 

4. 私は官僚にはなれない

個人的な話に戻ると、私は自身の任期終了後、経済産業省の中に残ることを希望しており、またその手はずが長い年月をかけて築いてきた信頼をもとに徐々に整えられてきていました。一日中ドキュメントと向き合っている弁護士業よりも、関係者を昼夜関係なく行脚し、説明をし、説得を試み、持てる事務処理能力と人脈をフル稼働するという官庁での仕事は、自分にとって天職だと思いました。

 

聞く人が聞けばちょっとあり得ない話なのですが、任期4年目で第一子を出産し、育休も少しいただいて、「ワーママ」としての経験第一歩を詰ませていただいたのも経済産業省です(しかも、任期付きでは省内初・・ありがたい限りでした。)。その恩返しも含め、自分の残りの長い社会人人生をこの組織で過ごすという選択肢に強い魅力を感じました。

 

しかしながら皮肉にも、私は「ワーママ」であるからその人生を諦めた部分がありました。保育園等のツールをフル稼働してやってやれない仕事ではありませんでしたし、そのような女性も多くいたのですが、私が経済産業省の「中の人」になれば、能力を発揮できるのは基本的に法律改正や制度整備のまっただ中の忙しい部署になることが基本となると予測されました。

 

生粋の官僚ではありませんので、ちゃんと勝負しようと思ったらどうしてもそのような夜遅くまでの仕事が前提となる部署になってしまうのです。働き方改革がどんなに進んでもタコ部屋で17時に終業することはできません。二回目の法改正作業の際には子供はまだ生後半年でしたが、深夜に回らない頭で何百通ものメールをキャッチアップし、土日は当然返上、大晦日も23時まで霞ヶ関、夜泣きで1時間に一回は起きる短時間睡眠の連続でした(法改正作業のリアルな実態をお伝えしようとして詳述してしまいました。)。

 

過酷な仕事に聞こえますが、自分という人間に与えられた役割を強烈に自覚する日々はとにかくやりがいに溢れ、素敵な人々に多数巡り会えて幸せでした。

辛い選択でしたが、私は半永久的にその生活をして家族を後回しにすることはできないと思いましたし、また、子供がある程度大きくなる期間まで、と割り切って相対的に忙しくない部署に配置されることと自分の求められている役割にうまく折り合いを付けることも当時は難しいと思ってしまいました。

 

そして私の転職活動は紆余曲折を経たため、これを自覚するのに時間もかかったのですが、実は一番クリティカルな理由として、私はあくまで専門家であること、弁護士であることを辞めたくなかったのです。

自分が不正競争防止法を二回改正した中で得た誰よりもマニアックな知識に日の目を見て欲しかった。

 

自分しか得ていない特異な経験を法律の専門家として打ち出していきたかった。これに尽きると思いました。官庁に残ればその経験は単なる過去の業務になりますが、外に出ればそれを自分の未来のフックにできると思いました。さらには、そうすることによって、単なる法改正の経験を有する一人の役人になるよりは、希少性を高められるのではないかという思考回路を辿りました。そしてそれこそが、今回お伝えしたいことの柱である、官庁に在籍することの醍醐味なのです。

 

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