日本組織内弁護士協会(JILA)は、組織内弁護士およびその経験者によって創立された任意団体です。

オンラインジャーナル

ONLINE JOURNAL

2021.06.03| オンラインジャーナル

イノベーション時代のM&Aと新たな競争法審査 ~企業結合ガイドライン改正を踏まえて~

よろしければ情報をシェアしてください!

4. 「見えない競争力」をどう評価するか

企業の競争力を分析する際には、市場シェアを基準とするアプローチが広く認知されています。実務でも、市場シェアに基づくセーフハーバー基準が満たされる場合には、当該M&Aは基本的には競争上の懸念がないと整理されてきました。企業結合ガイドライン改正により、セーフハーバー基準に該当しても、競争上重要なデータや知的財産権等の市場シェアに反映されない高い潜在的競争力がある場合、競争状況が個別に検討されます。

 

デジタル・プラットフォーマーやスタートアップらは革新的なビジネスや新しい市場を創出し、M&Aによりイノベーションを加速させ、事業者や消費者の便益を著しく向上させる可能性を秘めています。一方で、データや知的財産権、研究開発設備・人材等の集積は、研究開発競争のインセンティブを阻害するという懸念もあります。データや知的財産権、イノベーションは市場シェアで測れない「見えない競争力」といえるでしょう。

 

しかし、「見えない競争力」が市場での競争を実質的に制限する仕組みやプロセス(セオリーオブハーム)をどう考えるかは難しい問題です。日本では、従来、医薬品分野におけるパイプライン開発の文脈でも議論されてきましたが、製品化(上市)が不確実な段階の研究開発競争の議論は途上です。また、デジタル・プラットフォーマーの市場においては、間接ネットワーク効果やデータ集積による効果的なターゲティングの実現、その他データの事業横断的な使用による総合的な事業能力の向上といった、様々な角度から、「見えない競争力」の評価が試みられています。

 

5. 令和の審査事例からの示唆

筆者が留学・出向した米国や欧州でも、データや知的財産権、イノベーションのセオリーオブハームや研究開発競争は活発に議論され、日々進歩しています。デジタル市場の取引実態を調査する公取委のデジタル市場企画調査室の設置に続き、政府はデジタル等の成長分野の競争環境を集中調査する公取委の専門チーム新設を検討しています。

 

そのなかで、記憶に新しいLINEとZホールディングスとの経営統合は、企業結合ガイドライン改正後最初の大型デジタルM&Aとして注目されました。

 

公取委は、間接ネットワーク効果のほか、経営統合のセオリーオブハームとしてデータの集積にも着目しました。デジタル広告(インターネット広告)事業との関係では、LINEがコミュニケーション・アプリを通じて収集するデータのYahoo!の検索サイト等での利用には個人情報保護法制等の制約等から競争に大きな影響は生じないとした一方、コード決済事業(PayPayとLINE Pay)との関係では、いわゆるデータの「4V」も踏まえ、当事会社が保有するデータの量・収集範囲と収集頻度から、統合後の事業能力が向上し競争への実質的制限が生じる可能性が否定できないとしています。

 

データが競争に及ぼす影響の評価はエムスリー/日本アルトマークやGoogle/Fitbitの事例でも試みられており、今後も「見えない競争力」のセオリーオブハームをどう考え、評価するのか、事例の集積に注目する必要があります。

よろしければ情報をシェアしてください!