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2021.06.03| オンラインジャーナル

イノベーション時代のM&Aと新たな競争法審査 ~企業結合ガイドライン改正を踏まえて~

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筆者

金子 涼一

金子 涼一(かねこ りょういち)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 パートナー弁護士。

米国・欧州で培った経験から、国内・クロスボーダーの買収、企業提携・JV等や各国の競争当局対応に精通し、M&A・投資の局面でディール・競争法の両面から実務的なアドバイスを行う。

M&A・競争法のセミナー・講演にも精力的に取り組む(『スタートアップ投資を題材とした投資契約・株主間契約・提携契約の勘所』、『事例とQ&AでわかるM&Aとガンジャンピング(予定)』、『英文株式譲渡契約の重要論点』、『法務担当者のための英文契約書の基礎』等)。著書に『英国公開会社買収法制とScheme of Arrangement』(2021・金融商事判例(予定))、『英国の欧州連合離脱と競争法の展望』(2019・BUSINESS LAWYERS)等。

 

− 目次 −

1. M&Aと競争法審査の新たな潮流
2. FacebookのWhatsApp買収と事前届出基準
3. 「届出基準を満たさない」の落とし穴
4. 「見えない競争力」をどう評価するか
5. 令和の審査事例からの示唆
6. おわりに

 

1. M&Aと競争法審査の新たな潮流

令和に入りM&Aと競争法審査は新たな時代を迎えています。

M&A市場では、従来の成熟した企業や事業の買収のみならず、スタートアップやベンチャーを対象としたM&Aが注目を集めています。特に日本では、コロナ禍でも堅調な事業会社やCVCによるスタートアップ、ベンチャーのM&A・投資には、イノベーションの創出の加速と企業の中長期的価値向上、スタートアップの安定的成長が期待されています(令和3年3月発表「大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書」経済産業省)。

 

イノベーションの鍵となるM&Aにおける法律実務家の役割はますます高まっている

 

M&Aにおいて、競争当局への事前届出の要否や競争当局からの承認(クリアランス)の見込みは、M&Aのストラクチャーやスケジュールにも影響を及ぼすため、競争法審査はM&Aの初期段階から検討すべき重要なポイントといえるでしょう。一方で、プラットフォーマーやベンチャーが持つ知的財産権やデータが市場での競争に与える影響を競争法上どう評価するかは、既存の枠組みでは必ずしも明らかでなく、プラットフォーマーやベンチャーのM&Aを念頭に置いた競争法審査の在り方がグローバルに議論されてきました。日本でも、令和元年に公正取引委員会(公取委)によるM&Aの競争法審査(企業結合審査)の指針である企業結合ガイドラインと企業結合審査の手続に関する対応方針(対応方針)が改正されました。

 

このような背景から、法律実務家がM&Aを通じたイノベーションの実現において担う役割は、特にM&Aと競争法審査の場面で、刻々と重要さを増しているといえます。

本稿では、M&A案件にディール・競争法の両面から携わる筆者が、イノベーション時代のM&Aと競争法審査の新たな潮流を踏まえた、M&Aにおける法律実務家の役割と実務での留意点を考えてみたいと思います。

 

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