2020.07.21| オンラインジャーナル
企業における発信者情報開示請求の実務について
筆者
澤野 正周(さわの まさちか)
楠・岩崎・澤野法律事務所 パートナー弁護士(第一東京弁護士会)。
企業内弁護士として、Twitter Japan株式会社では日本および韓国の法務責任者を、アマゾンジャパン合同会社ではE コマース、物流業務、不動産、人事労務および一般企業法務を経験。
スキャ デン・アープス法律事務所では、主に不動産ストラクチャード・ファイナンスおよび各種不動産取引に従事。
− 目次 −
1. プロバイダ責任制限法の改正を求める動き
2. 被害者からの発信者情報開示請求
3. 弁護士会による発信者情報の照会
4. 捜査関係事項照会書
1. プロバイダ責任制限法の改正を求める動き
昨今のネット上の誹謗中傷を巡っては、特に被害者の立場から、発信者(投稿者・加害者)に関する情報開示をより迅速に進めることができるよう、プロバイダ責任制限法の改正を求める動きがあります。高市早苗総務相も2020年5月26日の記者会見で、「どのような手段であれ、匿名で他人を誹謗中傷する行為は人として卑怯で許しがたい」と述べた上で、プロバイダ責任制限法で規定する匿名発信者の情報開示手続きについて「適切に運用されることが必要」とし、「発信者の特定を容易にするための方策などについて検討する予定である。この検討結果を踏まえて、制度改正も含めた対応をスピード感を持って行いたい。」との見通しを示しました。
その一例として、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」は、プロバイダ責任制限法の定める開示情報について、①有用性②必要性③相当性の観点から検討を進めており、現在は開示対象として規定されていない「電話番号」を追加することが適当としています。
また、東京地裁は、この総務省の検討を先取りする形で、2020年6月26日、Twitter社に対し、なりすましアカウントを開設する際に使用された携帯電話番号の開示を認める判決をしています。
このような状況下において、発信者に関する情報開示請求を受ける立場にある企業は、表現の自由等の対立利益にも考慮しつつ、現行法上どのような対応が具体的な選択肢として考えられるのか、筆者の実務経験を踏まえた私見を述べさせていただきます。
なお、発信者情報開示を認める裁判所の仮処分決定や判決がある場合または差押許可状がある場合におきましては、情報を保有する企業は請求に応じて開示するでしょうから、本稿では、任意の開示請求について述べることとします。
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