2020.05.27| オンラインジャーナル
新時代へ:弁護士の採用人事と人工知能(AI)の未来図
4 AI時代の法務人材
AI時代に求められる法務人材の像も必然的に変化していくと思われます。まず各企業がAIを実装していくことに適切に対応できる能力が求められるでしょう。基本六法の活用だけではなく、いわゆる情報法と呼ばれる法分野の法務がますます注目を浴びていくことになるのではないでしょうか。また、従来、法律業務は、紛争が起きた際に事後的に訴訟等により解決を図る紛争法務、紛争を予防するために事前に会社の内規整備を行う等の予防法務、さらには経営判断と整合的な法務機能を提供するような戦略法務などが中心とされてきました。しかし、AI時代には「公共政策法務」という手法も重要になってきます。特定の社会的課題を解決する際には企業として公共政策法務を展開して社会のルールメイキングそのものに携わっていく必要があり、公共政策法務のできる法務人材が今後は重要性を増していきます。
経済産業省は、令和元年11月19日、「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会 報告書 ~令和時代に必要な法務機能・法務人材とは~」(https://www.meti.go.jp/press/2019/11/20191119002/20191119002-1.pdf)を公表しました。この報告書は、法務機能について、クリエーション機能(ルールメイキングにより実現可能な事業範囲を広げる機能)、ナビゲーション機能(事業・経営に寄り添いリスクの分析等を通じて積極的に戦略を提案する機能)、ガーディアン機能(実現可能な範囲内にとどめる機能)の3つがあることを指摘した上で、法務機能が新たな価値創造を失わせるような「過剰なガーディアン」になるおそれに警鐘をならしています。例えば、人事データの利活用と個人情報保護の要請が衝突した場合に個人情報保護を過剰に重視して事業をストップさせるのではなく、個人情報保護法を遵守しながら人事データを利活用する方法を考えることが必要です。こうした課題に直面したとき、公共政策法務を展開して人事データ利活用原則という自主的なルールを作ることにより社会的な課題を解決する法務は、クリエーション機能の発揮ともいえるでしょう。
この報告書で言われていることは、弁護士業にとっては、「古くて新しい問題」といえます。特定の事業を展開したいという企業の法律相談に対して違法性を指摘して「ノー」を突き付けるだけの弁護士よりも、合法的な事業・サービスに組み替えて提言できる弁護士があるべき姿だ、というような言説は古くからあります。弁護士にとって、違法行為を阻止することも事業価値を増大させることも重要ですから、何事もバランスが重要といえます。
法務機能にどのような機能を期待するかは、各企業の体制整備とも関連する問題です。法務機能に経営面での重責にまで踏み込ませたい場合には、経営責任にも踏み込みうる権限と責任を与える必要がありますし、ただ単にガーディアン機能を期待する場合には純粋な伝統的な法務部として組織を組成すれば良いでしょう。いずれにしても激変するAI時代では、法務部門と他部門との協同が重要性を増していくことは間違いないと思います。
5 AI関連の推薦書
最後に、本記事に関連する書籍をいくつか推薦したいと思います。
まず、一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会著(北崎茂編著)による『ピープルアナリティクスの教科書』(日本能率協会マネジメントセンター、2020年)は、ピープルアナリティクスやHRテクノロジーの最前線で活躍する実務家・研究者の手で書かれた信頼できる教科書であり、お勧めできます。
もっとも、上記書籍は法律の側面に焦点を当てたものではありませんので、HRテクノロジーと法律との関係を知るためには、さらに松尾剛行『AI・HRテック対応 人事労務情報管理の法律実務』(弘文堂、2019年)を読むのが良いでしょう。
もっと広くAI・ロボット法を学びたい方には、弥永真生・宍戸常寿編『ロボット・AIと法』(有斐閣、2018年)をお勧めしていきます。
これらの本を読んで、是非、強い法務人材を目指していただければと思います。