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New2026.01.12| オンラインジャーナル

<速報> 規制改革推進会議丨2026年1月9日開催丨「弁護士法におけるAI活用の更なる明確化」の議論速習―法務省・規制改革推進会議・経団連等の見解を一気読み―

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既に、日本経済新聞において「弁護士法巡るリーガルテック指針、運用見直しへ 法務省」という速報が出ておりますが、本記事を読了いただくことにより、読者は、2026年1月9日に開催された規制改革推進会議の「第6回 デジタル・AIワーキング・グループ」における「弁護士法におけるAI活用の更なる明確化について」の議論を速習し、法務省・規制改革推進会議・経団連等の見解を一気読みすることができます。
 
また、各資料の原典及び会議の議事動画の原典(YouTube)などの資料も網羅しています。
 
本稿がお忙しい皆様の「AIと弁護士法」の最前線の状況把握のお役に立てば幸いです。はじめに、登壇した5つの組織・個人の主張を1つ1つまとめていきます。

 

登壇者(敬称略) 主な主張の立脚点 本質的な課題と解決へのアプローチ(の概要)
経団連 企業の生産性と競争力
  • 課題:法務人員の不足と業務の高度化・逼迫。
  • 解決:AIによる自動修正を認め、リソースを高度な経営判断へ注力させる。
AIリーガルテック協会 第3世代AIの進化と国際競争
  • 課題:グレーゾーン回答による「可能性」という文言が一人歩きし、事業者が萎縮。
  • 解決:解釈の更なる明確化、または特別法による予見可能性の担保。
渡部友一郎弁護士 実務的予見可能性の永続化
  • 課題:3年ごとに規制改革会議を繰り返す非効率性を指摘。
  • 解決:構成要件の解釈から「AIガバナンス」の枠組みを加味した議論への転換を目指す。
リーガルテック研究会 司法アクセスと歴史的趣旨
  • 課題:1933年の「事件屋排除」の論理が、現代の司法アクセスを遮断する恐れ。
  • 解決:非紛争領域を整理し、消費者保護や専門家養成による新たな規律を構築する。
法務省 司法の信頼と段階的発展
  • 課題:ガイドライン公表による萎縮効果と、ハルシネーション等の技術的リスクの両立。
  • 解決:タスクフォースを設置し、ハード・ソフト両面から段階的な課題解決を目指す。

表:5つの登壇者の主張の概要

 

1. 産業界が訴える「AI-Poweredな社会」への転換:日本経済団体連合会

日本経済団体連合会(経団連)は、少子高齢化・人口減少という避けることのできない社会課題に対し、AIを経済成長のドライバーと位置づける長期ビジョン「FUTURE DESIGN 2040」を提言しています。特に、企業法務の現場では、経営環境の複雑化により法的判断を求められる頻度が52%の企業で増加しており、業務の高度化・逼迫が深刻な問題となっています。NTT法務部門の具体的な試算によれば、年間4,000件の契約審査を行う企業がAIを導入することで、年間約4,000時間(社員2名分、労働時間の10%に相当)の稼働を捻出できる可能性が示されました。経団連は、AIが自動的に書面を修正し、法務部員が最終チェックのみを行う「理想の分業モデル」の実現を強く求めました。

● 資料1:一般社団法人日本経済団体連合会提出資料提出資料(公式サイトより抜粋)

 

2. 進化するテクノロジーと「萎縮」の懸念:AIリーガルテック協会

一般社団法人AIリーガルテック協会(AILTA)は、リーガルテックが「第3世代(エージェント機能)」へ突入した現状を報告しました。
 
もはやAIは単なる雛形との照合に留まらず、自律的に契約生成や法務相談の初期回答を行う段階に達しています。しかし、法務省によるグレーゾーン解消制度の回答において、「弁護士法第72条に違反する可能性がある」という文言が繰り返されていることが、サービスの自粛や開発断念を招く「誤解と萎縮」の要因となっていると指摘します。そして、海外ではHarveyやClioといった企業が巨額の資金調達を経て急成長する中、日本が遅れをとることへの危機感をあらわにし、専門性のない汎用AIとの「イコールフッティング(競争条件の同一化)」の必要性を訴えました。

 

3. 解釈論から「AIガバナンス」という新たな次元へ:渡部友一郎弁護士

渡部弁護士(筆者)は、これまでの「条文の文言解釈」というミクロな議論から、持続可能な「AIガバナンス」の構築というマクロな視点への転換を提言しました。2022年時点では低かったAIのコード修正能力が2025年には飛躍的に向上したデータ(2点から70点への進化)を示し、技術進歩に合わせて3年ごとにガイドラインを議論する「永久ループ」の非効率を謹んで指摘した上で、今後は、信頼できるAI運用のための「体制構築」を議論する検討会や勉強会の設置が有効であると提言しました。

● 資料3:日本組織内弁護士協会(JILA)理事渡部友一郎弁護士提出資料(公式サイトより抜粋)

※筆者個人の見解であってJILAを含む所属組織・団体の見解ではありません。

 

4. 歴史的背景から説く「法の現代的役割」:リーガルテック研究会

早稲田大学の石田京子教授(リーガルテック研究会)は、法社会学の観点から、弁護士法第72条が1933年(昭和8年)に制定された「他人間の紛争に介入する害悪(事件屋)」を排除するための規制であることを説明されました。100年前の「紛争介入の防止」というロジックを現代のAI技術にそのまま適用することの限界を説き、テクノロジーによる「司法アクセスの促進」を阻害すべきではないと論じられています。
 
特に、契約締結前の「非紛争案件」や企業法務、消費者教育といった領域については、弁護士法による一律の規制ではなく、業界の自主規制や消費者保護の視点による「質の担保」と、AIを使いこなす専門家の養成こそが重要であるという踏み込んだ見解をお示しになり、国際的な潮流(米国のサンドボックス制度等)に沿ったパラダイムシフトを提唱しました。

● 資料4:リーガルテック研究会提出資料(公式サイトより抜粋)

 

5. 司法の信頼と技術革新の止揚を目指して:法務省

議論の締めくくりとして、法務省大臣官房司法法制部の司法法制課長より、規制当局としての現状認識と今後の道筋が示されました。法務省「も」、我が国の法務サービスの質向上と国際競争力の強化という観点から、AIリーガルテックの発展は重要であるとの認識を共有しています。
 

  • ガイドラインの再定義と「誤解」の解消:
    令和5年8月に公表したガイドラインは、当時の技術水準に基づき予測可能性を高めるためのものでしたが、それがかえって事業者の萎縮を招いている可能性を認めています。司法法制課長は、弁護士法第72条が規制するのはあくまで「行為」であり、リーガルテックそのものを否定するものではないと強調しました。
  • 技術的リスクとガバナンスの確保:
    一方で、司法法制課長は、ハルシネーションによる誤った法的情報の提供や、機密情報の漏洩といった技術的・社会的リスクについては、国民の権利利益を保護する観点から看過できず、弁護士法第72条の趣旨である「法律生活の公正かつ円滑な営み」を堅持しつつ、いかにガバナンスを構築するかが喫緊の課題であるとの認識を示しました。
  • 段階的解決に向けたタスクフォースの設置:
    今後の解決策として、司法法制課長は、機動性に欠ける「ハードロー(法改正)」と、刑罰法規ゆえにホワイトリスト化が困難な「ソフトロー(指針)」それぞれの限界を指摘した上で、これらの一長一短を踏まえ、法務省は省内にタスクフォースを早急に立ち上げ、有識者やステークホルダーとの対話を通じて、段階的かつ抜本的な課題解決を図る方針を表明しました。

● 資料5:法務省提出資料(公式サイトより抜粋)

 

6. 質疑応答ハイライト:実務的スピード感と構造的改革への提言

質疑応答については非常に示唆的であるものの1時間近くあるため、私個人が特に重要だと感じた、委員と法務省とのやり取りに着目して2つのご発言を取り上げたいと思います。

○ 川邊委員― 実務現場の危機感と「スピード感」の追求

質疑応答の中で、川邊委員は、法務現場における人材不足が深刻化する中で、リーガルテックおよびAIの活用はもはや不可欠であるとの認識を示し、当局に対して技術革新の速度に合致した迅速な制度整理を強く促しました。同委員は、法務省に対して、ハルシネーションに伴うリスクは深刻な課題であると認めつつも、技術の進化は日進月歩であり、完璧な安全性を待つのではなく「Just Do It(とにかくやる)」の精神で前進すべきであると強調しました。
 
また、川邊委員は、弁護士が自らの業務内でAIを利用すること自体が非弁行為に当たらないという再確認を法務省に対して求めました。これに対し法務省側は、サービスの提供主体が弁護士である場合(いわゆる上流)や、利用者が弁護士として業務に用いる場合(いわゆる下流)については、原則として弁護士法第72条違反にはならないという見解を改めて明確に示しました。
 
さらに、川邊委員は、6月の規制改革最終答申を一つの節目(締め切り)として据え、早期に実質的な結論を得るべきであるとの強い姿勢で、ロードマップの策定を迫りました。
 

○ 落合委員― 人口減少社会における供給制約と新たな規制枠組み

落合委員は、日本社会が直面する人口減少と供給制約という構造的課題に立脚し、テクノロジーの活用を「避けて通れない道」と位置づけました。同委員は、社会の複雑化に伴い専門領域の需要が増大する一方で、法務・司法を担う専門人材の確保が困難になっている現状(大学教育の現場で学生が他職種へ流出している実態等)を憂慮し、この需給ギャップを技術革新によって補完することの不可欠性を説きました。
 
また、落合委員は、弁護士法第72条の「但書き(別段の定め)」を活用し、進歩的なアプローチとして新法の制定も選択肢に含めるべきであると提言しました。
 
さらに、具体的な規律のあり方の一案として、同委員は医療機器の審査制度を例に挙げました。これは、開発者側の安全性・有効性評価やシステムのマネジメント体制を多角的に審査する「アジャイル・ガバナンス」の手法を紹介しつつ、ハルシネーションのリスク管理やプライバシー保護を含め、システムに対するガバナンスを構築することで、技術革新と社会的信頼の維持を両立させるべきであるとの認識を共有されました。

 

7. おわりに(中室座長の総括)

最後に、筆者は(個人的な考えとして)、今後を占う上で、最も重要な「規制改革推進会議」側の最終的な締めくくりの言葉に注目する必要があると考えます。
 
中室座長は、本議題の締めくくりとして、6つの注目するポイントをお話されています。
 

  • 検討会の設置と結論の導出:
    企業法務における人手不足への対応と法秩序の維持・向上を目的とし、AI技術を利用したリーガルテックの利活用を一層推進する立場から、速やかに検討会を設置し、結論を得ること。
  • 検討の範囲と視点:
    従来のガイドラインのような法律の条文解釈やケースの当てはめに留まらず、将来的な技術水準の向上による多様なサービスの登場を想定した検討を行うこと。
  • 国際動向の調査:
    諸外国における規制状況やサービスの提供状況を調査すること。
  • ガバナンスと協調規制:
    利用者のリテラシーに配慮した専門家の関与や透明性の確保など、AIガバナンスの視点、および業界との協調的な規制について議論すること。
  • 立法措置の検討:
    解釈のみでは不十分な場合に備え、新法の制定を選択肢から外さずに議論すること。
  • 期限の設定と進め方:
    2026年6月の最終答申において一定の回答を示すことを目標とすること。国際競争力を維持するため、100%の結論を待つのではなく、段階的に改善しながら前に進めること。

 
2026年の議論の場は、法務省の設置する新しいタスクフォースまたは検討会(仮)に移りそうです。組織内弁護士も法務部門も、目が離せない状況が続きそうです。本稿が、「第6回 デジタル・AIワーキング・グループ」で議論された事項の速習のお役に立てば幸いです。なお、録画を見返しつつ記事を作成しておりますが、筆者の誤解等があれば文責は私個人にございますので、どうぞこちらよりご指摘頂けますと幸いです。
 

関連資料:第6回 デジタル・AIワーキング・グループ(公式)

 

著者(記事は個人の見解です)

渡部友一郎渡部友一郎

弁護士・日本組織内弁護士協会理事。

鳥取県鳥取市出身。2008年東京大学法科大学院 修了。2009年弁護士登録(第二東京弁護士会)。現在、Airbnb(エアビーアンドビー)Lead Counsel及び日本法人の取締役・日本法務本部長。2022年11月に開催された規制改革推進会議に有識者登壇。関連論説として、渡部友一郎ほか『弁護士法72条とリーガルテックの規制デザイン(上・下)』ビジネス法務2023年2月号及び3月号、渡部友一郎「基礎からわかるリーガルテック(1〜15・完) 」月刊登記情報62巻3号〜63巻5号、英文の解説など。

 

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