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2023.08.02| オンラインジャーナル

<速報・有識者解説> 法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」(リーガルテックガイドライン)―組織内弁護士が役員・上司・同僚に質問されたら即答したい3つのポイント―

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著者

渡部友一郎渡部友一郎

弁護士・日本組織内弁護士協会理事(第3部会部会長)

 

鳥取県鳥取市出身。2008年東京大学法科大学院 修了。2009年弁護士登録(第二東京弁護士会)。現在、Airbnb(エアビーアンドビー)Lead Counsel・日本法務本部長。ALB Japan Law Awards にて In-House Lawyer of the Year 2018(最年少受賞)、2023年GC Powerlist Japan  (Legal500) 掲載など。デジタル臨時行政調査会 作業部会「法制事務のデジタル化検討チーム」構成員、経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」法務機能強化実装WG委員など。 https://researchmap.jp/yuichirowatanabeご参照。

 

2022年11月に開催された規制改革推進会議(URL)に有識者登壇。関連論説として、渡部友一郎=角田龍哉=玉虫香里『弁護士法72条とリーガルテックの規制デザイン(上・下)』ビジネス法務2023年2月号及び3月号、渡部友一郎「基礎からわかるリーガルテック(1〜15・完)  」月刊登記情報62巻3号〜63巻5号、英文の解説として、Does AI Contract Review Violate the UPL under the Japanese Attorneys Act? など。

 

春日 舞春日 舞

弁護士・日本組織内弁護士協会会員(第3部会会員)

 

株式会社 LegalOn Technologies 企業法務グループ ディレクター。2009年東京大学法科大学院 修了。2010年弁護士登録(第二東京弁護士会)。TMI総合法律事務所を経て、2023年1月、同社入社、2023年4月より現職。2023年GC Powerlist Japan (Legal500) 掲載。

 

(*) 各個人の見解でありJILA及び所属組織の見解ではありません。

 

1. 本稿が読者に貢献できること

2023年8月1日、法務省は、同省ウェブサイトにおいて、「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」(以下「リーガルテックガイドライン」といいます。)を公表しました。

 

法務省ウェブサイト: https://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00134.html

資料名: 「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」

URL: https://www.moj.go.jp/content/001400675.pdf

 

今後、研究者及び実務家から、リーガルテックガイドラインに関する学術的・実務的な論説が発表されることが予想されます。

 

本稿が読者に貢献できる独自の点は、①速報性を保ちつつ、かつ、②一読しただけでは「深読み」が難しいポイントを解説することです。

 

2022年11月の規制改革推進会議において、有識者として登壇した弁護士渡部とリーガルテックガイドラインの策定に事業者側から関与した弁護士春日の知見を併せ、組織内弁護士の読者が(見逃す可能性があるかもしれない)3つのポイントをお伝えいたします。

 

なお、2022年11月の規制改革推進会議の時点で既に、組織内弁護士に対してサービスを提供する場合(つまり私達 組織内弁護士が利用する場合)には、外部弁護士が利用する場合と同様、弁護士法第72条の問題がないことが明らかにされています。この点は、リーガルテックガイドラインにおいても、改めて明確にされています(後述5ご参照)。

 

○杉本委員 1点だけ、申し訳ございません。 先ほど渡部先生と橘先生からも御指摘のありました、社内弁護士が利用する場合はどうなのかというところについて、議論したいという御要望があったかと思うのですけれども、この点についての法務省さんからの御回答をお伺いできればと思っております。

 

○御手洗座長代理 法務省さん、いかがでしょうか。

 

○法務省(中野参事官) 法務省でございます。 社内弁護士に対してサービスを提供する場合につきましては、当該弁護士が補助的に利用する場合であれば、今回お示しした回答、すなわち弁護士が利用する場合と同様に考えることができると考えております。

議事録ご参照

 

2. 謎?―日本経済新聞による規制改革推進会議の開催予定報道から10日後

はじめに、2023年7月22日の日本経済新聞電子版(24日月曜日の法税務面)の報道に接した組織内弁護士も多いかと思います。

 

AIで契約審査「法務省の指針案は不十分」政府内で懸念

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1601M0W3A710C2000000/

 

公表日(8月1日)のわずか10日前の当該記事の段階では、『(規制改革)推進会議は7月末までに作業部会を開き、法務省にヒアリングすることを検討している』と報じられています。これは、素直に読めば、法務省のリーガルテックガイドラインの公表「前」に、規制改革推進会議のワーキンググループにおける会議が差し挟まれる余地があったことが推察されます。

 

ところが、規制改革推進会議のウェブサイトを確認しても、また、関係者に取材を行っても、会議が開催されたという情報はありません(ので、開催されなかったと整理できます)。

 

他方、当該記事には、『法務省は原案の一部を修正する準備を始めた』という別のシナリオ・動きが示唆されています。この部分を手がかりとすれば、規制改革推進会議作業部会のレビューを行わなくても「事業者側の懸念が解消された」と考えるのが合理的と思われます。

 

では、リーガルテックガイドラインのどの部分が、読み解く上で実は重要と言えるのでしょうか。

 

3. ポイント①通常の業務に伴う契約の締結に向けての法的問題点の検討は多くの場合「事件性」がないことに言及したこと

 

(3)もとより、上記(1)、(2)以外の場合であって、いわゆる企業法務において取り扱われる契約関係事務のうち、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話合いや法的問題点の検討については、多くの場合「事件性」がないとの当局の指摘に留意しつつ、契約の目的、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景事情等諸般の事情を考慮して、「事件性」が判断されるべきものと考えられる。

AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について から抜粋

 

リーガルテックガイドラインは、弁護士法72条の一要件である「訴訟事件…その他一般の法律事件」について、いわゆる「事件性」が必要であること(注:伝統的に法務省は一貫して事件性必要性を採用しており、2022年11月の規制改革推進会議においてもこの点を明言した発言がある)を述べたうえで、「事件性」を認めがたい例を列挙しています。

 

通常契約を作成・レビューする場合は、これらの具体例にはいずれにも該当しないものの、「いわゆる企業法務において取り扱われる契約関係事務のうち、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の 話合いや法的問題点の検討については、多くの場合『事件性』がないとの当局の 指摘に留意しつつ、契約の目的、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景 事情等諸般の事情を考慮して、『事件性』が判断されるべき」との記載が認められます。

 

これは、通常企業法務に従事する方々が、契約を作成・審査するにあたってリーガルテックを利用する場面では、「事件性」がないことを指していると考えられます。

 

そして、弁護士法第72条本文に違反すると言うためには第72条の要件すべてを充足する必要があるところ、仮に(法務省の見解に従った上で)「事件性」の要件が充足されない場合であれば、当該利用者が弁護士資格を有するか否かを問うまでもなく、その時点で第72条の問題はクリアされていることになります。

 

− コラム:豆知識 「当局の指摘」ってなに? −

リーガルテックガイドラインに謎な記載があります。すなわち、『多くの場合事件性がないとの当局の指摘』という点についてです。「当局とはどちらの当局のこと?」という疑問を持たれた方もいらっしゃると思います。ここの理解には、若干の背景知識が必要となります。この当局とは、法務省のことであり、黒川弘務 氏(当時 法務省大臣官房司法法制部司法法制課長)の平成15年(2003年)12月8日に開催された「法曹制度検討会」における発言(「①の契約関係事務は、紛争が生じてからの和解契約の締結等は別としまして、通常の業務に伴う契約の締結、これは法律上の権利義務に関しての具体化又は顕在化した争いや疑義があるとは言えないと考えられますので、このような契約の締結に向けての通常の話し合いや法的問題点の検討は「事件性」のない法律事務であると解されます」という部分。アーカイブはこちら)及びその後公表された文書(アーカイブはこちら)を指しているものと思われます。

 

4. ポイント② 現行の契約作成・契約レビューサービス提供会社が提供する主な機能が、「鑑定…その他の法律事務」に該当しないことが明示されたこと

 

3 弁護士法第72条の「鑑定・・・その他の法律事務」にいう「鑑定」とは、法律上の専門的知識に基づき法律的見解を述べることをいうとされ、「その他の法律事務」とは、法律上の効果を発生、変更等する事項の処理をいうとされるところ、これらの点については、本件サービスにおいて提供される具体的な機能や利用者に対する表示内容から判断されるべきものと考えられる。

なお、以下では、本件サービスを、便宜上、「(1)契約書等の作成業務を支援するサービス」、「(2)契約書等の審査業務を支援するサービス」及び「(3)契約書等の管理業務を支援するサービス」に分類して記載しているところ、事業者が提供するサービスと同条の「鑑定・・・その他の法律事務」との関係について検討する際には、当該サービスにおいて提供される機能や表示の内容により、下記(1)から(3)までの各項目を参照されたい。

AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について から抜粋

 

リーガルテックガイドラインでは、「鑑定…その他の法律事務」に関し、同ガイドラインが対象とするリーガルテックサービスを、契約書等の作成・審査・管理業務の支援の3つに分類したうえで、それらの機能について、「鑑定…その他の法律事務」に該当し得る事例と該当しない事例を列挙しています。

 

これらの「鑑定…その他の法律事務」に該当しないと考えられる事例には、現行のリーガルテックサービスの主たる機能が明確に含まれています。

 

例えば、契約書等作成業務支援サービスにおいて、ユーザーが、予め設定された項目について定型的な内容を入力し、又は選択肢から希望する項目を選択することによって、プリセットされた複数のひな形から特定のひな形が選別されて表示される場合や、ひな形において利用者の選択した内容が当該ひな形に反映されて表示される場合や、契約書等審査業務支援サービスにおいて、レビュー対象契約とサービス提供者が登録しているチェックリストと類似部分がある場合に、それに紐づく、プリセットされた解説・条項例・裁判例等を表示させることや、その条項例が、レビュー対象契約の文言に言語的な意味内容にのみ着目して修正されて表示される場合は、「鑑定…その他の法律事務」に該当しない具体例として明記されています。

 

例示は細かいものの、大切な点として、プリセットされた表示として「解説・裁判例」のみならず「条項例」を許容される例として明示されている点は、リーガルテック事業者によって現在(リーガルテックガイドライン公表時点)提供されている仕様を十分に意識し、意図的にカバーしていると評価できるでしょう。

 

このようにリーガルテック事業者によって現在(リーガルテックガイドライン公表時点)提供されている主立った機能が、「鑑定…その他の法律事務」に該当しない事例として明記されたことは、リーガルテック事業者が提供するサービスが適法であることを明確にするものであり、企業法務におけるリーガルテックユーザーに、これまで以上に安心してサービスを利用してもらえるようになることに資すると考えられます。

 

また、法務省の文書(概要)には、日本の国際競争力の強化にもつながる点の言及があります。この部分は、まさに、2022年11月の規制改革推進会議において、御手洗座長代理が最後に言及された部分に対応し、かつ、法務省幹部が言及した「(法務省も)できる範囲で後押しをしていきたい」という想いが、ガイドラインにもしっかりと反映されたものと言えます。法務省が、ガイドラインを関係各所と細部に至るまで調整し、イノベーションを後押しする粘り強い姿勢があったことが窺われます。

◯法務省(中野参事官)
(略)法務省といたしましても、このAIにつきましては、有用であると考えております。先ほど来、協会さん、あるいは渡部先生から御指摘をいただいているところでありますけれども、契約の審査の高速化、あるいはナレッジマネジメントといったところに非常に役立つと聞いております。
したがいまして、我々といたしましても、できる範囲で後押しをしていきたいと考えておりまして、先般公表した回答の中でも、可能な限り白と言える範囲につきましては、我々としてもそのようにお示しさせていただいたところであります。 その上で、ガイドラインにつきまして、先生を含め様々な方から御意見を頂戴いたしました。これまでの法務省の回答でも一定程度明確に示させていただいているところだと我々としては理解しているところでございますが、本日、いただいた意見を踏まえて更に検討していきたいと考えております。 (議事録29頁:下線部等は筆者ら)

議事録ご参照

 

◯御手洗座長代理
(略)法務業務の効率化・IT化の進展は、大企業だけでなくスタートアップや地方の中小企業の課題解決にも大変役立つ取組であると考えております。ビジネスのグローバル化、加速するイノベーション、コンプライアンス強化の流れといった環境変化の中で、経営者にとって契約書業務の重要性は高まっており、効率化・IT化の重要性は高まっています。契約書の自動レビューサービスをユーザーが安心・安全に利用できる環境づくりは大変重要なことと認識しております。
そのため、リーガルテクノロジーの導入促進と弁護士法が目指すべきものとの両立を図ることが必要です。 このため、法務省様におかれましては、本日の議論を踏まえて、法務省見解の公表、その中での適法なケースの具体的な例示、ガイドラインの作成など、弁護士法の適用の範囲について、予見可能性を高めていくような取組を御検討いただきますようお願いいたします。本日、各委員から御意見をいただいた事項については、後日、法務省における検討状況を確認してまいります。法務省様におかれましては、前向きな検討を行い、速やかに結論を出していただけるようにお願いを申し上げます。ありがとうございました。 (議事録34頁:下線部等は筆者ら)

 

議事録ご参照

 

 

5. ポイント③ 弁護士(組織内弁護士含む)が、自己の契約業務のサポートツールとしてサービスを利用する場合には弁護士法72条違反とならないことが明示されたこと

 

4 本件サービスが、上記1から3までの「報酬を得る目的」、「訴訟事件・・・その他一般の法律事件」及び「鑑定・・・その他の法律事務」の要件のいずれにも該当する場合であっても、例えば、利用者を以下のいずれかとして本件サービスを提供する場合には、通常、弁護士法第72条に違反しないと考えられる。

 

(1)本件サービスを弁護士又は弁護士法人に提供する場合であって、当該弁護士又は弁護士法人がその業務として法律事務を行うに当たり、当該弁護士又は当該弁護士法人の社員若しくは使用人である弁護士が、本件サービスを利用した結果も踏まえて審査対象となる契約書等を自ら精査し、必要に応じて自ら修正を行う方法で本件サービスを利用するとき

 

(2)本件サービスを弁護士又は弁護士法人以外のものに提供する場合であって、当該提供先が当事者となっている契約について本件サービスを利用するに当たり、当該提供先において職員若しくは使用人となり、又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士が上記(1)と同等の方法で本件サービスを利用するとき

以上

AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について から抜粋

(1) 構成要件に該当しかし違法性阻却事由?

リーガルテックガイドラインには、最後の項目として、弁護士(組織内弁護士も含む)が、リーガルテック「サービスを利用した結果も踏まえて審査対象となる契約書等を自ら精査し、必要に応じて自ら修正を行う方法で本件サービスを利用するとき」には、弁護士法72条の要件のいずれにも該当する場合であっても、通常、弁護士法72条に違反しないと考えられることが明記されています。

 

前述の通り、この点については、2022年11月の規制改革推進会議の際に明確になっていたものが、リーガルテックガイドラインにおいても改めて文書化・明確化されたことになります。

 

リーガルテックガイドライン上はロジックについては明確にしておりません。この点について、実務家間のメールやSNS上でも、リーガルテックガイドラインの上記4の「理論構成がわからない」「どういう法的分析なのだろう?」という声をみかけます。

 

この部分を考察すると、弁護士法72条の趣旨が、弁護士資格を持たず、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを禁圧することにあることからすると(最高裁判所昭和 46 年 7 月 14 日大法廷判決・刑集 第 25 巻 5 号)、弁護士が自らの契約関連業務の補助ツールとして利用する場合には、弁護士法72条の全ての要件に該当する場合であっても、違法性が阻却されるものというロジックに従ったと解されます。

 

上記の『全ての要件に該当する場合であっても』という文言は、第72条が刑罰法規であることを踏まえた場合、構成要件(Tb) に該当性する場合であっても…(違法性阻却事由または今回は該当しないものの責任阻却事由がある)ということを暗示していると思われます。法務省の担当部署では、法務省のプロパーの専門家に加え、検察庁の法曹(検事)も任にあたっていることから、このような記述が生まれたことが推測されます。

 

(2) 残された研究課題

なお、法務省が違法性阻却事由であるとの理論構成を採用している場合、記載された事例以外にも阻却事由が拡大する余地があるのか否かは今後の残された研究者・実務家の検討課題の1つといえます。議論の補助輪となる「リーガルテックリテラシー」に関する実証実験に関する提唱については、渡部友一郎=角田龍哉=玉虫香里『弁護士法72条とリーガルテックの規制デザイン(下)』ビジネス法務2023年3月号をご高覧ください(*)。

 

(*) この観点から参照できる既存の規制デザインとして、令和4年7月1日から施行された金融商品取引法の「特定投資家(個人)の要件の見直し」がある。当該規制デザインでは、金融商品取引業等に関する内閣府令第62条第1項第4号・同3項を新設し「特定の知識経験を有する者」を特定投資家の範囲に含めた。同条第3項には「資格を有する者」(例:弁護士などの国家資格が想定できる)、「…に合格したもの」(例:弁護士会が主催するリーガルテックリテラシーに関する民間試験が想定できる)及び「…係る業務に従事した期間が通算して一年以上になる者その他の者であって、前三号に掲げる者と同等以上の知識及び経験を有するもの」(例:法務部門の業務に従事した期間がある者が想定できる)を含む旨の規定があり、これを参考に、ソフトローにおいて、どのような利用者であれば、リーガルテックの当該機能を利用しても弊害が少ないかを探求できそうである。重要な点として、どの程度のリテラシーが必要かという客観的なデータによる実証事業が行われている点があり、①証券会社の顧客にリテラシーテストを実施し、②平均正答率を算出し、現行法の基準に該当する投資家と概ね同等以上の金融リテラシー(平均正答率)があると推定される投資家属性が調査されている。

 

(3) リーガルテックガイドライン4に関する若干の考察

若干の考察として、リーガルテックガイドラインが公表される以前には、AI等による契約書審査サービスが弁護士法72条に違反しない事例が必ずしも明確ではなかったために、2022年11月の規制改革推進会議の議論に基づいて、「組織内弁護士をAIツール利用の担当者として全件必須関与としたら、問題が回避できる」(ゆえに、組織内弁護士が契約書審査業務に張り付くことになる)という私達の「働き方(role and responsibility)」に関する影響も考えられました。

 

しかしながら、上記のとおり、通常の業務に伴う契約の締結に向けての契約書等の作成・審査・管理業務の支援のリーガルテックサービスは、「事件性」がなく、「鑑定…その他の法律事務」にも該当しない以上、企業が同サービスを利用するにあたって組織内弁護士が利用しているかどうか「のみ」によって、弁護士法第72条の該当性の結論が変わることは通常はないと考えられます。

 

したがって、企業におけるリーガルテックサービスの利用に関して、弁護士法72条の観点から、組織内弁護士の関与を必須とするプラクティスの形成は必須ではないと考えられます。(もちろん、組織内弁護士の専門性を活かすために自主的にリーガルテックサービスの利用に主体的に関与することは企業にとってメリットがあると考えられます。)

 

6. おわりに

以上の通り、2023年8月1日に公表された法務省による「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」(リーガルテックガイドライン)の見落としがちなポイントを3点(マニアックな話も含めて)お話をさせていただきました。本稿が、サラサラと読めてしまい、また、深く読むと一見難解なリーガルテックガイドラインの研究に役立てば幸いです。

 

筆者(ここでは弁護士渡部)は、規制改革推進会議の委員に対して、2022年11月の規制改革推進会議において、リーガルテックの利用者である企業の法務部門のやや苦しい立場を「データ」で示しました(資料はこちら、スライド13-14)。すなわち、2015年と2020年を比較すると、新たな法令や急激に不透明さを増し続ける法的外部環境にもかかわらず、法務部門の人員が減少又は変わらなかった(=純増していない)企業は52.4%にも及ぶことを示しました。多くの企業において、増える仕事 vs. 増えない人員の中で「業務の効率化」を図るほかに、業務を安定して遂行する道は残されていないと言えます。事実、2015年は15位と圏外であった「法務業務の効率化・IT化」が、2020年には第1位(49.4%)となっています。これらのデータは、リーガルテックの技術的便益を安定して享受できるか否かが、各企業のイノベーションを支える法務部門にとってクリティカルであることを裏付けています。

 

斎藤健法相は、8月1日の記者会見において、「企業の法務機能の向上を通じ、国際競争力の強化に資する」と述べました。リーガルテックの技術的便益を享受し、法務部門の人員が必ずしも純増しない環境の中であっても、業務の効率化を図り、リーガルリスクマネジメントなどの臨床法務技術を駆使して、経営者及び事業部門のinformed decisionに貢献し続け、同僚及び外部弁護士と手を携え、企業の真の国際競争力の強化を実現することが、今、組織内弁護士にさらに強く求められていると言えます。

 

筆者らとしては、この度のリーガルテックガイドラインが、組織内弁護士及び法務部門にとって、大きな意味を持つ転換点になることを期待しています。

 

(以上)

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