日本組織内弁護士協会(JILA)は、組織内弁護士およびその経験者によって創立された任意団体です。

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2020.09.17| オンラインジャーナル

会社存亡に関わるサイバーセキュリティをデジタル刑法学者が紐解く特別寄稿:組織内弁護士とサイバーセキュリティ

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不正アクセス禁止法が,機密性が侵害される情報の種類に関心を持たずに,IDというメタデータの完全性侵害を捕捉していたのに対し,不正競争防止法では,営業秘密という企業活動にとって有用な情報が民刑の両面から保護されています。営業秘密に対する保護は情報の保護を徹底した立法例です。それは例えば,営業秘密の不正取得・開示といった行為について,物の取得や交付だけでなく,データの送受信,口授も含め,方法を問わずに保護されると解されており,データレベルや存在形式と関係なく情報の保護を行っていることが看て取れます。

 

一方で,ある情報が営業秘密として保護されるためには秘密管理性が必要になります。ここでいう秘密とはアクセス権限が一定の範囲内の者に限定された非公知な情報と理解できます。営業秘密の保護法制においては有用性に加え秘密管理性を要求し,秘密であることの認識可能性を周囲の者に発生させることにより,当該情報の要保護性が高い場合に限ってこれを保護することにしています(不正競争防止法2条6項)。

なお,同法21条1項1号の営業秘密不正取得罪をみると,手段行為に不正アクセス行為があることがわかります。不正アクセス行為が情報の取得それ自体とは別の行為として捉えられており,棲分けができていることを確認できます。

 

5. まとめ

以上,我が国の不正アクセス行為は営業秘密等の情報保護立法ではないことがわかります。アメリカでは無権限アクセスの規定が営業秘密侵害に転用されたことが問題になったことをみると, 4.で紹介した我が国における棲分けの議論は合理的でしょう。もっとも同時に不正アクセス行為の範囲を正確に理解しておくことが肝要です。そして,社内の秘密を守るという観点からの不正アクセス禁止法の利用には限界があるので,秘密管理を徹底することで営業秘密にしておくことが重要です。

提案手法である三分法の使い方については書籍(太田勝造編著『AI時代の法学入門―学際的アプローチ』(弘文堂,2020))を,三分法の導出過程の議論については西貝吉晃「コンピュータ・データへの無権限アクセスと刑事罰(1)」法学協会雑誌135巻2号376頁以下(2018)を,不正アクセス禁止法の具体的な解釈については,書籍(西貝吉晃『サイバーセキュリティと刑法』(有斐閣,2020))をご覧ください。

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